一を聞いて九をこね上げ十を知る


 記憶力を超える速さで読むと、当然、読み飛ばしが起こります。
 理解力が目から入ってくる情報量を処理できないと、必要な単語まで捨ててしまいます。
 ところが人間とは面白いもので、記憶力と理解力の不足でボロボロになった文章でも、脳が確証バイアスという原理に従ってそれなりの文章に再構成してくれます。と言っても、けして元の文章は再現できません。過去に知り得た内容や読み手の想像を当てはめて、文章を再構成するのです。これは夢や思い違いの原理と同じです。
 こう書くと、カンの良い人なら、もう問題点を理解できたでしょう。読んでいた本が小説だと、エセ速読をしている人の頭の中では、ほとんど違う物語として再構成されてしまいます。そして、それは読み手が過去に読んだ物語の焼き直しであり、読み手の想像力を超えた未知の展開でも読み手の想像力の範囲内に収めてしまいます。