『銀の犬』の感想(その1)

銀の犬

銀の犬

ぼちぼち感想文を書くことにしよう。
見出しに「その1」とつけたのは一気に全部書くのがしんどそうだからだ。とりあえず書けるところまで書いて、行き詰まったら一旦おしまい。気が向いたら続きを書くし、気が向かなかったらそのまま放置することにしよう。
さて、『銀の犬』は光原百合の最新作で、書き下ろしだという。初期*1の『時計を忘れて森へいこう (クイーンの13)*2や『遠い約束 (創元推理文庫)*3の牧歌的な作風から『十八の夏』でかなり作風が変わり、その後の『星月夜の夢がたり』や『最後の願い』などを読むと、ずいぶんと苦みの増した雰囲気の作品が増えている。さて、今回はどうなっているのか。
……あれ? なんか『十八の夏』以前の作風に近いのでは?
『銀の犬』は連作短篇集で、次の5篇が収録されている。

  1. 声なき楽人*4
  2. 恋を歌うもの
  3. 水底の街
  4. 銀の犬
  5. 三つの星

このうち第1話から第3話までと、第4話、第5話との間には少し断層があるように思う。前者はどちらかといえば初期作品に近く、後者はやや『十八の夏』以降の作品に似ている。もしかすると、これは『銀の犬』の構想期間の長さを示しているのかもしれない。他の作品の実際の執筆時期データがないのでいい加減な憶測になるが、2000年頃に光原百合の作風に変化が生じたのではないだろうか。そして、その前後に『銀の犬』のプロットが構築されたのだとすれば、脳内妄想年譜上の辻褄はあう。2000年といえば『ポップスで学ぶ英語』*5が出版された年だが、果たしてこの本に光原百合の作風の変化を探る鍵が隠されているのだろうか? 残念ながら未見なので何ともいえない。
ええと、行き詰まった。仕切り直し。
『銀の犬』はファンタジーだそうだ。ファンタジーというのは概して苦手で、あまり読んだことがない。『銀の犬』も読もうかどうしようか迷ったのだが、ミステリ的な要素も含まれているという前評判を聞いたので、とりあえず読んでみることにした。そんな無教養の読者なので、『銀の犬』を幻想文学史に位置づけることなどできるはずもない。
では、ミステリ史に位置づけるほうはどうか。
う〜ん。
日常の謎」というようなわかりやすい特徴があるわけでなし、異世界を舞台にしているから「異世界本格」だ、などと言う気にもならない。謎の種類から分類すればホワイダニットだが、図式的な「フーダニット→ハウダニットホワイダニット」という進歩史観*6に当てはめるのも筋違いだ。どことなくチェスタトンのブラウン神父ものの半倒叙的なスタイルに似ているような気がするが、どの程度似ていてどこが異なっているのかをきちんと整理して述べるには今からブラウン神父を読み直さないといけない。さすがにそこまで手間をかける気にはならない。
次行こ、次。
『銀の犬』に収録された作品は、みな何らかの形で男女間の恋愛を扱っている。これは別に『銀の犬』に限った話ではなくて、光原百合の小説はたいてい恋愛絡みだ。現時点で最も売れていると思われる『十八の夏』など、オビにでかでかと「恋愛小説」と書かれている*7ほどだ。表題作は日本推理作家協会賞受賞作なのに……。
脱線した。
『銀の犬』の各篇は単に恋愛を扱っているというだけではない。恋愛に関してある出来事が起こるという点も共通している。それは……あ、これは書いてしまうとネタばらしになってしまうかもしれないので「続きを読む」記法を用いていちばん最後に書いておくことにしよう。その「☆☆☆☆☆」という出来事は既に『時計を忘れて森へ行こう』の収録作のひとつでも扱われているので、別に目新しいことではないのだが、作品集全体の共通テーマ(?)となっているのは『銀の犬』が初めてだ。
とはいえ「☆☆☆☆☆」という事柄に着目すれば『銀の犬』がすんなり読み解けるというわけでもない。第1〜3話はそれでもいいが、第4、5話では「☆☆☆☆☆」ということの比重は大きく後退して、別の要素のほうが重要になってくる。さきほど「断層」と言ったのはこのことを指している。
そろそろ何が何だかわからなくなってきたので、続きはまたの機会にして、一旦打ち切ることにしよう。「☆☆☆☆☆」の部分に何が入るのかは、下記を参照のこと。念のため約100回連続改行しているので、ずずっと下までスクロールしてください。



































































































恋人が死ぬ

*1:光原百合の創作歴は結構長いのでこの2作を「初期」作品と呼ぶのはやや語弊があるかもしれないが、一般には『時計を忘れて森へ行こう』が公式デビュー作とされているので、ここではその通念に従うことにする。

*2:これは先月文庫化された。ISBN:4488432026

*3:これも文庫化されている。ISBN:4575509477

*4:「楽人」には「バルド」とルビが振られている。

*5:はまぞうには登録されていないので、かわりに国立国会図書館 NDL-OPAC(書誌 詳細表示)にリンクしておく。

*6:今でもこんな史観を信奉しているミステリファンがいるのだろうか?

*7:ただし、来週放送予定のドラマ化にあわせて、いま書店で流通している分はオビが変更されている。