無認可校だと通学定期が使えない

僕が先日最後の講義を終えたデジタル・エンターテインメント・アカデミー(DEA)はゲーム業界でも名門と言われる専門学校である。

高校を卒業したばかりで専門学校と無認可校の区別もつかない若者ならともかく、「文科省のゲーム開発教育系専門学校の教材を作るプロジェクトに足掛け4年関わっている」*1ような大の大人が、こんな初歩的な間違いを犯しちゃいけませんや。

デジタルエンタテインメントアカデミーは、2年制のコンピュータゲーム専門の無認可校(学校法人ではない)。短縮コース(8月入学。定員40名)は20ヶ月で終了。所在地は東京都新宿区。略称はDEA(校内部では「ディーイーエー」と称しているが、OBや一部の採用先企業など関係者からは「デア」と呼称されていることが多い)。

あ、でも

デジタルエンタテインメントアカデミーは、平成3年に豊島区北大塚にエニックスアカデミーとして開設されて以来、1,200名以上の卒業生、修了生を輩出してまいりましたが、関係者の方々のご協力とスタッフ一同の努力にもかかわらず、18歳人口の減少、大学全入時代の到来等、事業環境の変化により、学生数は減少傾向にありました。

このような環境下で、デジタルエンタテインメントアカデミーでは、前述のとおり、できうるかぎりの手段を尽くし、学生数の確保に向けた努力を続けてまいりましたが、誠に残念ながら近い将来の入学者数の回復は困難と判断しました。今後一層の事業環境の悪化が見込まれることから、平成20年度の学生募集を停止し、現在の1年生が全教育課程を修了することとなる平成21年3月末をもって閉校するという決断をするに至りました。

ということだから、この件に限っては実害はないか。

補足

こういう話をすると、「そんなに厳密な話じゃないんだから、どうだっていいじゃん」という反応が予想されるので、予め釈明しておく。
「専門学校」という言葉は、実際、専門技能を扱った教育施設の総称のようないい加減な使い方をされることがよくある。これは、本来新幹線ではない新在直通運転区間のことを「山形新幹線」とか「秋田新幹線」などと呼ぶのに似ている。しかし、両者の重みは天と地ほども違う。学校は重く、新幹線は軽い。
山形新幹線が法的に厳密な意味で新幹線かどうかは乗客にとってはどうでもいい話で、「山形新幹線は新幹線ではない」などという知識は雑学レベルのものに過ぎない。他方、ある教育施設が専門学校かそうでないか、特に無認可校でないかどうかは、その気養育施設の学生やそこに進学することを考えている生徒にとって、どうでもいい話では済まない。見出しに掲げた通学定期の件はごく卑近な例に過ぎず、たとえば卒業時に「専門士」の称号が得られるかどうかなど、専門学校と無認可校の間の違いは大きい。ことは、単なる法律上の便宜上の仕分けの問題ではない*2のだ。
専門技能教育についてよく知らない人が専門学校とそうでない教育施設を区別できずに無造作に「専門学校」という言葉を使うことに目くじらを立てるつもりはないが、複数の学校で講師をした経験をもつ人なら、もうちょっと襟を正してもらいたいと思う。
もう一つ、想定される反応として「専門学校と無認可校を間違えて入学して不利益を被ったとしても、それは要するに当人にリテラシーがなかったということじゃないの? 自己責任でしょ?」というものがある。実を言えば、これには全く賛成だ。個別のケースでのトラブルで「ここが無認可校だったとは知らなかった!」と言って騒ぐ人がいたとしても、そりゃ調査を怠ったほうが悪い*3
とはいえ、複雑化と専門化が進む現代社会において、すべての人に十分な情報リテラシーを求めるのは事実上不可能であるし、情報の受け手側が調査をするコストも積もり積もればバカにならない。それが民主主義のコストだと言ってしまえばそれまでだが、情報の受け手側に比べて多少とも事情に明るい送り手側の心がけによってコストが増減する*4のだから、その点でも情報の送り手には節度を求めたい*5
要するに、「自己責任」という言葉がふさわしい場面においても、簡単な方法で側面サポートできるならそれに越したことはない、ということ。無認可校のことを「専門学校」と書かない、ということにさほどの労力が必要とも思えないので。

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脱線

教育繋がりで、YouTube - 橋下知事「教育長は方針を語る立場ではない あの人は教育委員会事務局長なんです」にリンク。これにはムカッときた。
現職の弁護士で地方自治体の長でもある人が何ということを言うのか、と。あんたの行政法の知識は地方分権一括法以前で止まったままなのか、と。合議制の執行機関たる教育委員会を何と思っているのか、と。
あ、これは別項を立てたほうがよかったかも。

*1:どういう関わり方なのかは知らないが、文科省のプロジェクトの関係者が専門学校とは何かを知らないとは考えにくい。

*2:ちなみに学校教育法第135条には名称独占規定があるが、図書館法博物館法にはそのような規定がないため、誰でも勝手に「図書館」「博物館」と名乗ることができる。この違いはなかなか興味深い。関心のある人は学校教育法第136条と図書館法第29条も比較されたい。

*3:教育施設側が積極的に「専門学校」という呼称を用いて誤導した場合は話は別。餅月望は「この一作で消えてくれたら言うことはない」作家か?の「余談」で言及したアミューズメントメディア総合学院のケースなど。別にそこで指摘したからではないだろうが、その後是正されたのは幸いなことだった。

*4:その点、現行の学校制度のネーミング自体が人々に余計なコストを強いるもので、あまり感心しない。紛らわしい言葉は民主主義の敵だを参照されたい。

*5:少し文脈は異なるが、これはデータは独り歩きするの「追記」で述べたことでもある。