宗教法人と公益法人

長野県など中部地方を中心にラブホテルを経営する宗教法人が関東信越国税局から約14億円の所得隠しを指摘されていたことが分かった。ホテルの休憩料などの収入は本来、課税対象だが、国税局はこの宗教法人が休憩料の一部を非課税のお布施と偽っていたなどと認定した模様だ。

公益法人の一種の宗教法人は実質的な税率が低いため、同法人への追徴税額は重加算税を含めて約3億円。同法人は指摘を不服として異議申し立てをしている。これらのホテルは同県千曲市のキノコ・野菜類加工販売会社の前社長(71)が実質的経営者とみられ、同社の現社長(46)は「実際に国内の恵まれない子にお金を送っている。国税当局とは争う」と話している。

この記事を読んで「あれ? 宗教法人って公益法人のうちに入るんだったっけ?」と首を傾げた。
で、早速、ウィキペディアで調べてみた。

宗教法人(しゅうきょうほうじん)とは、法人格を取得した宗教団体の事である。営利を目的としない非営利団体であり、公益事業もできる公益法人の一つ。

でもって、「公益法人」の項も見てみた。

公益法人(こうえきほうじん)とは、一般社団・財団法人法により設立された社団法人または財団法人であって、公益法人認定法により公益性の認定を受けた法人。公益社団法人と公益財団法人を合わせた総称である。

上記の定義は、2008年12月1日に公益法人制度改革3法が施行された以降の定義である。2008年11月までは、公益を目的とし民法第34条に則って設立された社団法人または財団法人のことを公益法人と言っていた。

おや? これだと宗教法人は公益法人のうちには入らないのでは?
では、次に法律の条文を見てみよう。

第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一  公益社団法人 第四条の認定を受けた一般社団法人をいう。

二  公益財団法人 第四条の認定を受けた一般財団法人をいう。

三  公益法人 公益社団法人又は公益財団法人をいう。

宗教法人はもちろん一般社団法人でもなければ一般財団法人でもないから公益法人でもないということになる。
だが、同じ用語が法律によって別の意味で用いられるというのはよくあることだ。元の記事の内容は税に関するものなのだから、税法でどのような扱いになっているのかを見てみなければならないだろう。
で、所得税法を見ると、宗教法人は「別表第一 公共法人等の表(第四条、第十一条関係)」に出てくる。ただし、所得税法の本文には「公共法人」や「公共法人等」の定義はない。
ついでに法人税法を見ると、こちらでは「別表第二 公益法人等の表(第二条、第三条、第三十七条、第六十六条関係)」の中に宗教法人が含まれている。ちなみに、法人税法にも「別表第一 公共法人の表(第二条関係)」という表があるが、その中には宗教法人は含まれていない。参考のため、法人税法における「公共法人」と「公益法人等」の定義を見ておこう。

第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

五  公共法人 別表第一に掲げる法人をいう。

六  公益法人等 別表第二に掲げる法人をいう。

宗教法人が少なくとも法人税法上の「公益法人等」に含まれることははっきりした。でも「等」抜きの「公益法人」に含まれるという規定は見あたらなかった。というか、法人税法では「公益法人」が「等」を伴わずに単独で現れる箇所はひとつもないのだ。
ちなみに、宗教法人とは直接関係はないけれど、「公益の増進に著しく寄与する法人」略して「特定公益増進法人」も紹介しておこう。

特定公益増進法人(とくていこうえきぞうしんほうじん)とは、“公益の増進に著しく寄与する特定の法人”の略のこと。

公共法人、公益法人などのうち教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与するものとして、所得税法78条及び所得税法施行令217条、法人税法第37条及び法人税法施行令第77条で定められている寄付行為への制度。

最後に所得税法施行令217条と法人税法施行令77条を対照表の形で掲げておく。

所得税法78条 法人税法第37条
本文 法第七十八条第二項第三号(公益の増進に著しく寄与する法人に対する寄附金)に規定する政令で定める法人は、次に掲げる法人とする。 法第三十七条第四項(公益の増進に著しく寄与する法人に対する寄附金)に規定する政令で定める法人は、次に掲げる法人とする。
1 独立行政法人 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項(定義)に規定する独立行政法人
1の2 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項(定義)に規定する地方独立行政法人で同法第二十一条第一号又は第三号から第五号まで(業務の範囲)に掲げる業務(同条第三号に掲げる業務にあつては同号チに掲げる事業の経営に、同条第五号に掲げる業務にあつては地方独立行政法人法施行令(平成十五年政令第四百八十六号)第四条第一号(公共的な施設の範囲)に掲げる介護老人保健施設の設置及び管理に、それぞれ限るものとする。)を主たる目的とするもの 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項(定義)に規定する地方独立行政法人で同法第二十一条第一号又は第三号から第五号まで(業務の範囲)に掲げる業務(同条第三号に掲げる業務にあつては同号チに掲げる事業の経営に、同条第五号に掲げる業務にあつては地方独立行政法人法施行令(平成十五年政令第四百八十六号)第四条第一号(公共的な施設の範囲)に掲げる介護老人保健施設の設置及び管理に、それぞれ限るものとする。)を主たる目的とするもの
2 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団及び日本赤十字社 自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団及び日本赤十字社
3 公益社団法人及び公益財団法人 公益社団法人及び公益財団法人
4 私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)第三条(定義)に規定する学校法人で学校(学校教育法第一条(定義)に規定する学校をいう。以下この号において同じ。)の設置若しくは学校及び専修学校(学校教育法第百二十四条(専修学校)に規定する専修学校財務省令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)若しくは各種学校(学校教育法第百三十四条第一項(各種学校)に規定する各種学校財務省令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)の設置を主たる目的とするもの又は私立学校法第六十四条第四項(私立専修学校等)の規定により設立された法人で専修学校若しくは各種学校の設置を主たる目的とするもの 私立学校法第三条(定義)に規定する学校法人で学校(学校教育法第一条 (定義)に規定する学校をいう。以下この号において同じ。)の設置若しくは学校及び専修学校(学校教育法第百二十四条(専修学校)に規定する専修学校財務省令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)若しくは各種学校(学校教育法第百三十四条第一項(各種学校)に規定する各種学校財務省令で定めるものをいう。以下この号において同じ。)の設置を主たる目的とするもの又は私立学校法第六十四条第四項(私立専修学校等)の規定により設立された法人で専修学校若しくは各種学校の設置を主たる目的とするもの
5 社会福祉法人 社会福祉法第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人
6 更生保護法人 更生保護事業法第二条第六項 (定義)に規定する更生保護法人

んー、なんで規定の仕方が違っているんだろう???