蛸に関する引用
千葉県南部には,タコにまつわる次のような伝承がある.昔,布良の番太という者の女房が,海辺にいた大ダコの足を慰みに毎日1本ずつ切っては帰り,食っていた.ところが8日めに最後の1本を切ろうとしたとき,高波にのまれ,タコの足に巻かれて沖へ連れていかれてしまったというのだ.そのために同地では,タコは恐ろしい動物で,人の命をとるといい伝えたという(《郷土研究》第2巻第4号〈大正3年6月〉).なおこれと似たような民話は,長崎県の島原半島や神奈川県をはじめ,各地で語られている.
荒俣宏『世界大博物図鑑 別巻2>[水生無脊椎動物]<』平凡社(1994),p.246
そして、とうとう八日目になりました。
大ダコには、一本の足しか残っていません。おばあさんは、ほんのちょっと考えましたが、
「こんなにおいしいもん、ほっとくてはないわい」
と、いよいよ最後の八本目の足を切りとろうとしました。
池原昭治『日本の民話300 旅先で聞いた昔話と伝説』木馬書館(1993),p.452*1
そしてタコは自分の足をカミソリのような鋭い歯で、ガリガリと一本かみ切って、
「そら、婆さん、持って行きんさい。おれの足は心配せんでよかとよ。便利なもんけん。根元からかみ切っても、しばらくすっぎ、足はのびて来っ。一年もすんないよかろうたい。そしばってん、どっさい栄養は取らんばならんたい」
と言って、大きなタコの足を一本渡した。婆さんは、たいへん喜んで、大きなタコの足を一本肩にして、よろけんばかりで帰って行ったと。
『グラフィックカラー 日本の民話 第14巻・九州I』研秀出版(1976),p.122*2
婿は大ダコの化け物で、嫁のために自分の足をえさにして、魚を取っていたが、いつの間にか魚に食いちぎられ、とうとう一本足になってしまい、嫁にタコであることを見つかったので、二度と嫁のところへ帰ることができなくなったという話でおじゃる。
『グラフィックカラー 日本の民話 第5巻・関東II』研秀出版(1977),p.89*3
その時、お浜は大蛸に向かって「私はあなたに何の不足も感じませんが、八本足が気に入りませんので二本になって下さい。ついては私に毎日一本ずつ切らせ、六日目にあなたが二本足になった時、私は喜んで嫁に行きます」と言った。大蛸は渋々承知し、お浜は毎日一本ずつ切りに行った。