白杖と腕時計(つづき)

白杖と腕時計でコメント欄とメールでさまざまな意見を頂いた。諸般の事情により*1個別のレスや返信のかわりに、ここで一括してまとめておく。
まず、結論から先にいえば、件の人は全盲ではなくて弱視だったのだろう。これは前回書き忘れていた*2のだが、件の人は白い杖を前方に差し出してはいたが、左右に振ってはいなかった。
杖を障害物感知のためのレーダーとして用いるなら、最低限自分の身体の幅で振らないと意味をなさない。障害物のすべてが寸胴の形*3ではなくて、上部が基礎部分よりも突出しているもの*4も多いし、さらに、動く障害物もある*5から、自ずと杖を振る角度は広くならざるを得ない。
ここでちょっと余談だが、以前どこかのサイトで「障害者が社会に出ること自体には反対はしないが、〈弱者〉の立場をかさにきた横暴な振る舞いには腹が立つ。たとえば、必要もないのに杖を振り回す視覚障害者はなんとかならないか」というようなことを書いていて、驚いたことがある。軽い杖とはいえ、それを始終振り回すのは結構疲れる作業だ。弱者風を吹かせるなどという酔狂な動機で、必要以上に杖を振るような人がいるものかね?
余談おわり。
杖を振らずに歩いていたということは、杖のレーダー機能を使っていなかったということで、じゃあ一体何のために杖を持っていたのかという話になる。「足が悪かった」という可能性はもちろん成り立たない。足が悪い人はわざわざ点字ブロックの上を歩いたりしない。そもそも白杖はステッキや松葉杖とは違って身体の支えにはならないだろう。*6
白杖には自分が視覚障害者であることを周りの人に知らせるという役割があるということは知らなかった。*7よく考えれば、白杖にそのような機能があることはわかったはずなのだが、そこまで意識して考えたことがなかった。「一本の棒は常に正反対の二方向を指し示す」と言ったのはブラウン神父だったか。名探偵への道は遠い。
また余談になるが、白杖のもつ二つの機能から連想したことがある。自分自身の行動の指針という主目的のほかに、他人に自分の存在を認知させるという目的をもったモノが、われわれの身近に多数存在している。それは、自動車のヘッドライトだ。
余談終わり。
さて、白杖と並ぶ(?)もう一つのアイテム、腕時計についてもいろいろと想像することができる。それはふつうの腕時計だったのかもしれないし音声や手触りで時刻を知らせるタイプの腕時計だったのかもしれない。あるいは、腕時計型通信機だったという可能性も捨てきれない。さらに、腕時計型ライターで白杖型煙草に火をつけようとしていたのだという可能性も考えようと思えば考えられないことはない。でも駅構内は禁煙だ。
だんだん話が変な方向に向かっていきそうなので、今回はこれでおしまい。

*1:単に面倒なだけだが。

*2:ミステリならこんな重要なデータを隠すのはアンフェアだが、昨日の段階ではさほど重要とは思っていなかったので仕方がない。

*3:たとえば、昔ながらの丸形の郵便ポストなど。

*4:たとえば、一本足で立っている角形の郵便ポストなど。

*5:たとえば、スケートボードの上にのった郵便ポストなど。より身近な例としては、人間。

*6:もしかしたら、そういう機能を兼ねた白杖もあるのかもしれないが、先日見かけた白杖は普通のものだった。

*7:メールで教えてもらったロービジョンというページにも同様の記述があった。