アンバランス

日日日の小説を読むと、驚くほどの巧妙さ非凡さと呆れるほどの稚拙さ凡庸さが同居していて、不思議な気分に陥ることが多い。
たとえば、ふりがな。本筋とは全く関係はないのだが、「肉体道楽」という怪物の名に「ヴェクサシオン」というルビが振られていて*1この組み合わせには意表を衝かれた。他方、「王手」に「チェックメイト」とルビを振る*2という初歩的な誤りもみられる。
まあ、ルビなんて飾りに過ぎないのだが、プロットやエピソードの組み立て方にも似たような特徴がある。で、日日日の小説を読むたびに複雑な気分になるのだ。デビュー当時によく言われたように「××の単なる劣化コピー*3という意見にはくみしないが、手放しで賞讃することもできない。そこで、ついつい新刊が出るたびに読んでしまうのだ。
はっ、これはもしかすると謀略なのかっ! しまった、たばかられたわっ!

*1:149ページ。「ヴェクサシオン」とは「いやがらせ」という意味のフランス語で、エリック・サティにこのタイトルのピアノ曲がある。

*2:258ページ。調べてみると案外同じ間違いは多いようだ。

*3:「××」の中に入る作家名は人によって異なる。誰のコピーかという点では意見が一致しないのに、ともかく劣化コピーであるという点である程度合意に達しているという不思議な現象が一時期みられた。