それがしメイドにあらず

ぼくのご主人様!? (富士見ミステリー文庫)

ぼくのご主人様!? (富士見ミステリー文庫)


ダメダメ。めちゃくちゃつまらんかった。ていうかさー、中身が男なメイドさんが男のご主人様に仕えるという時点で間違ってるだろ。
最初、設定だけ見たときには全く同じことを考えた。作者ホワイトハートでデビューした人だそうだから、「これって、いわゆる『女体化』ってやつ?」と思ったりもした。
しかし、読んでみると全然そうではないことがわかった。主人公が仕えるのは男性でなければ、この話は成立しない。
思うに、いちせ氏の評価は、「目覚めたらEカップメイドさんに」というネタだけで作ったような話という認識から演繹されたもので、その意味では全く正しい。この作品では巨乳は虚乳であり、性転換を巡る嬉し恥ずかしラブコメ的展開が全くないので、読んでいて拍子抜けするのは確かだ。また、カバー絵に惹かれて買ったメイド好きな人々に大受けするとも思えない。
だが、一人の少女のひたむきな恋とまごころを間接的に描いた純愛物語として読めば、非常に面白い。作中にほとんど登場しない彼女――読み飛ばしや誤読がないとすれば、彼女がじかに登場するのは6ページ1〜2行目のわずか2行のはずだ――こそが、この小説の真の主人公なのだ。
新年早々いい小説に巡り会えた。
(以下、ネタばらしではないけれど、できれば『ぼくのご主人様!?』読了後に読んで下さい)
……と持ち上げてはみたけれど、やっぱり手放しでは褒められない。
この設定とストーリーなら視点を主人公一人に固定しておいたほうがよかったのではないだろうか。もちろん、そのためには世界間移動に関するルールをもっと厳密に定めておいて、書かれざる背景を作中の伏線から読者がある程度推理できるようにしておかなければならない。たとえば『タイム・リープ』とか『学校を出よう!』の2巻とか*1そんなふうにきっちりと作り込んでおいたほうがより楽しめただろう。
逆に、視点が固定されていないのだから書こうと思えば書けたはずの結婚式の顛末について直接書かれておらず、希望的観測のみで締めくくっているのがどうにも気にかかる。お話の途中で投げ出されたような感じ。あとがきには紙数の都合で書けなかったことがあるというようなことを書いているが、エピローグにちょこっと一場面、ほんの数ページ付け加える余裕もなかったのだろうか?
後者については、続篇があれば解決することだが、「この設定でもう一冊」というのはちょっと辛いかもしれない。う〜ん。

*1:もう一つ挙げたい作品かあるのだが、この2作と併記すると未読の人にネタばらしすることになるので控えておく。