空に星、地には新星

笠辺哲 短編マンガ集 バニーズ ほか IKKI COMIX

笠辺哲 短編マンガ集 バニーズ ほか IKKI COMIX

奥付によれば、この本のタイトルは『短編マンガ集 バニーズ ほか』となっている。『笠辺哲 短編マンガ集 バニーズ ほか IKKI COMIX』などという珍妙なタイトルではない。念のため。
さて、これは近年稀にみる優れたショートショート集だ。いや、収録作はみな16ページ以上の長さがあるので、ショートショートと言ってしまうとちょっと語弊があるのかもしれない。でも、長さじゃないんだ、スピリッツなんだ、と言い切ってしまおう。……と強調してみたものの、そもそも「ショートショート」という言葉と、この言葉で表されるジャンル*1に思い入れがない人にとっては、全く意味が通らないことだろう。まあ、これは仕方がない。
閑話休題。以下、各収録作ごとに簡単に感想を述べておく。

島一家
オチの切れ味がいい、ショートショートのお手本のような作品。
エデュケーション フロム アウタースペース
これは明らかに寓話だが、ここからどのような寓意が読み取れるかは明らかではない。
衛生下士官
非日常と日常のコントラストに、ふと11年前の阪神梅田駅を連想した。
バニーズ
博士の名前は出てこないが、きっと彼もエフ博士の一人なのだろう。
ロッカー貿易
こちらは東芝博士という名前だが、からくり儀右衛門が作った会社とは関係なさそうだ。
渡る世間
ときには仏は鬼より残酷だ。
虎の門
とことん、どん底
わすれな草
5年前には新宮に住んでいたことを思い出した。
イパネマの娘
最後は蛇足だが、蛇足であるからこそ傑作となったのだろう。

どれもこれも粒よりの作品だが、個人的な好みでいえば「渡る世間」がベストで、「島家族」と「わすれな草」と「イパネマの娘」が同率2位だ。

*1:便宜上「ジャンル」という言葉を用いたが、SFとかミステリと同じような意味ではショートショートはジャンルではない。むしろ、ショートショートとはジャンル横断的なカテゴリーの一種だと思われる。