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とらドラ〈2!〉 (電撃文庫)

とらドラ〈2!〉 (電撃文庫)

行きつけの書店は電撃文庫の新刊の入りがよくない。発売初日に行きそびれて、翌日行ってみたら『とらドラ2!』は売り切れていた。もしかしたら最初から入荷していなかったのかもしれない。
入手に手間取っているうちにあちこちで感想文がアップされ、竹宮ゆゆこの人気のほどを知らされた。だが、いちせ氏の感想文を読むとちょっと気になる点があった。というのは、『とらドラ!1 (電撃文庫)』の評価は「最高傑作」だったのに、『とらドラ2!』は「最高傑作級」ですらなかったということだ。これは大暴落といってもいいだろう。
そういうわけで一抹の不安を抱きつつ読み始めたのだが、予想していたほど質が低下していなかったのでほっとした。明らかに大河路線を狙っているので多少の間延び感は否めないが、場面場面でのテンションは高くて楽しんで読めた。これなら続けて3巻以降も買うことにしよう。
前巻の感想文でも触れたが、このシリーズの叙述スタイルは非常に厳密なもので、主人公の竜児以外の人物の心理を直接描くシーンは全くない。前巻169ページ以降の「証言」など、凡庸な作家ならふつうに心理描写しているところだが、この作者は決してぶれない*1。今回はそれほど目立った手法を用いているわけではないが、たとえば81ページには次のような記述がある。

どっと積もった疲れを振り払うように、亜美の先に立って走り続ける。そのせいで、竜児は見ることができなかったのだ。後をついて走っている亜美が「やっぱこいつ、チョロすぎじゃん」と鼻先で小さく笑っていたことを。
この箇所だけをとってみれば、亜美の心の中に踏み入っているようにもとれる。だが、ところどころで亜美が不用意に本心を口に出すシーンもあるので、ここでも同様に独り言をいっているのだとも解釈できる。まるで、フェアかアンフェアかのぎりぎりの叙述トリックを仕掛けるミステリ作家のような書き方だ。文章の隅々にまで神経が行き届いていることに感心した。
さて、こんな細かい点は気づいたのに、レトロネタには全然気づかなかった。

なるほど。言われてみればわかる、わかる。ああ、としをとったなぁ。
他人の書評や感想文を読むと、ときおり新しい発見がある。また、「新しい発見」というのとは少し違うのだが、視点や語り口の面白さを味わうこともある。締めくくりにそのような例をひとつ紹介しておこう。


竜児くんと大河さんは、恋愛関係にはないけれど依存関係と互恵関係(かろうじて)にあるふたり、なのですが、実にこう、ねえ?

*1:もちろん、「証言」にはコミカルな味わいという効果もあるので、必ずしも叙述スタイルへの拘りのみによるものではない。