錆びついた脳みそのための柔軟体操


2ちゃんで未だに論争中の問題を挙げます。どなたかわかりませんか。
独立な命題P、Qについて
命題X:(PならばQ)かつ(QならばP)
命題A:PならばQ
命題B:(PかつQ)ならばP
命題C:(Pでない)または(Qでない)
命題D:PかつQ
命題E:(Pでない)かつQ
と定めるとき、次のうち正しい命題はどれか。 
1 AならばX
2 BならばX
3 CならばX
4 DならばX
5 EならばX
リンク先にはもう一問挙げられているが、経済学のことはよくわからないので、こっちだけ。
問題に取りかかる前に、いくつか確認しておく必要がある。
「正しい命題」というのは文脈から考えれば真なる命題のことだ。誰も道徳的正しさなど問題にはしていないのだから。だが、単に真なる命題を選ぶのだとすれば答えは一通りに定まらない。というのは、PとQの真偽によって、1〜5の真偽も当然違ったものになるからだ。それでは具合が悪いので、この問題ではPおよびQの真偽にかかわらず必ず真となる命題を選ぶように要請されているのだと考えることにしよう。
次に「かつ」「または」「ならば」「でない」の意味について。
「かつ」は、それによって繋がれたふたつの命題がともに成り立つことを表す言葉であり、「でない」は、それが付け加えられた命題が成り立たないことを表す言葉だ。このあたりはあまり異論のないところだが、残るふたつは場合によって使い方が変わる。「または」は、それによって繋がれたふたつの命題のうちどちらか一方が少なくとも成り立つことを表す言葉としても、どちらか一方だけが成り立つことを表す言葉としても用いられる。「ならば」の場合はもっと厄介だ。
だが、ここでは日本語意味論について深入りすることは避け、古典論理に従って、それぞれの言葉の意味が次の4つ表によって紛れなく定まるものとみなすことにしよう。上の問題文中に出てくる記号との重複を避けるため、命題を表すのに☆と★を用いることにする。
【表1】

☆かつ★

【表2】

☆または★

【表3】

☆ならば★

【表4】

☆でない

では、早速問題を検討しよう。
まず最初に与えられた命題PとQの真偽の組み合わせを考えてみよう。

  1. Pは真、Qは真
  2. Pは真、Qは偽
  3. Pは偽、Qは真
  4. Pは偽、Qは偽

この4通りの場合が考えられる。
次に、それぞれの場合について、PとQを「かつ」で繋いでできる命題の真偽を調べる。
【表5】

P Q PならばQ

【表6】

Q P QならばP

どちらも上の表3にPとQを入れただけだ。後々のために2つの表をひとつにまとめておく。順序は表5にあわせるので、表6は二段目と三段目が入れ替わることになる。
【表7】

P Q PならばQ QならばP

次に命題Xについて考える。この命題は

  • PならばQ
  • QならばP

を「かつ」で繋いだものだった。
「かつ」の意味は表1で示したとおりなので、表1の☆のかわりに「PならばQ」、「QならばP」を入れた表を作ると次のようになる。
【表8】

PならばQ QならばP X

さて、表7と表8を見比べてみよう。表7の一段目は「PならばQ」と「QならばP」の両方が真の場合なので、表8の一段目に対応する。同様に表7の二段目は表8の三段目に、表7の三段目は表8の二段目に、それぞれ対応する。
では、表7の四段目は? これも「PならばQ」と「QならばP」の両方が真の場合なので一段目と同じことだ。つまり表8の一段目に対応する。結局、表7には表8の四段目に対応する段がないことになる。
以上、とりまとめて表7に書き足しておこう。
【表9】

P Q PならばQ QならばP X

これで、命題Pと命題Qの真偽の組み合わせ4通りのそれぞれの場合に命題Xの真偽がどうなるのかがわかった。表9の中のほうを端折って、簡単に表すことにする。
【表X】

P Q X

次に命題Aについて調べる。命題Aは「PならばQ」なので、既に表5で見たとおりだ。
【表A】

P Q A

では、命題Bはどうだろうか? これは「PかつQ」とPを「ならば」で繋いだものなので、まずは「PかつQ」の表から書き出すことにする。表1の☆と★にPとQを置き換えて次のようになる。
【表10】

P Q PかつQ

また、表3の☆に「PかつQ」を、★にPを入れると、次の表が得られる。
【表11】

PかつQ P B

表10の一段目ではPと「PかつQ」の両方が真なので、これに対応するのは表11の一段目。表10の二段目に対応するのは表11では三段目。表10三段目には表11四段目が対応し、表10四段目にも表11四段目が対応する。従って、これをとりまとめて次の表が得られる。
【表12】

P Q PかつQ B

一行端折っておこう。
【表B】

P Q B

だんだんうんざりしてきたが、先を続ける。
次は命題Cだ。これは「(Pでない)または(Qでない)」なので、まずは「Pでない」の表と「Qでない」の表を別々に作る。どちらも表4を加工すればすぐにできる。

【表13】

P Pでない

【表14】

Q Qでない

これをもとにして、PとQの真偽を組み合わせた四段の表を作る。
【表15】

P Q Pでない

【表16】

P Q Qでない

表15と表16をまとめてひとつにする。
【表17】

P Q Pでない Qでない

次に「Pでない」と「Qでない」を「または」で繋いだ表を作る。これは表2をもとにすれば簡単にできる。
【表18】

Pでない Qでない C

さらに表17と表18を見比べるわけだ。その前に簡単のため表18の一段目と四段目、二段目と三段目を入れ替えておこう。
【表19】

Pでない Qでない C

こうすると、表17と表19はそのまま接続できる。
【表20】

P Q Pでない Qでない C

例によって間を抜いて完成。
【表C】

P Q C

もう一息。次は命題D、つまり「PかつQ」だ。これは表10で既にやっている。
【表D】

P Q D

最後は命題E、「(Pでない)かつQ」だが、これは

  • Pでない
  • Q

を「かつ」で繋いだものなので、「かつ」の意味を定めた表1を使う。
【表21】

Pでない Q E

表21の一段目と三段目、二段目と四段目をそれぞれ入れ替える。
【表22】

Pでない Q E

さらに「Pでない」とQも入れ替えておこう。
【表23】

Q Pでない E

すると、これは表15と接続できる。
【表24】

P Q Pでない E

これで命題Eの表が完成した。
【表E】

P Q E

これまでに作った表A,B,C,D,E,Xを全部まとめてひとつの表にしてみよう。
【表A,B,C,D,E,X】

P Q A B C D E X

あとは、次の5つの命題の真偽を検討するだけだ。

  1. AならばX
  2. BならばX
  3. CならばX
  4. DならばX
  5. EならばX

全部ふたつの命題を「ならば」で繋ぐという形をとっている。念のため、「ならば」の意味を定めた表3を再掲しておこう。
【表3(再掲)】

☆ならば★

☆にA〜Eをそれぞれ、★にXを当てはめたときに、上の【表A,B,C,D,E,X】と見比べていくわけだが、さすがにとことん嫌になってきたので、いちいち見比べる作業を書き出すことはせず、結果のみ表示する。
【最終表】

P Q A B C D E X 1 2 3 4 5

1〜5のうち、P、Qの真偽にかかわらず必ず真となるのは4だけだ。
よって、答えは4ということになる。