近所の図書館のお薦め本

555(ファイズ)

555(ファイズ)

これまで桜庭一樹のノベライズ作品を読んだことはなかった。
オリジナル作品ですら未読のものがまだ二、三冊残っているのに、ノベライズまで手を出す余裕がない。たぶん、このまま一生、山田桜丸名義の本を読むことはないだろう。
これを読んだのは、見出しのとおり近所の図書館でお薦め本になっていたからだ。
この図書館、数年前に市町村合併を控えて駆け込みで作ったもので、地方自治体のハコモノの多くがそうであるように中身はかすかすで資料調べには全然使えない。では、貸出至上主義まっしぐらかといえばどうもそうでもないようで、なぜかマニアックなミステリとSFばかりが並んでいる。スタージョンとかコニー・ウィルスを面陳して「もう読んだ?」と書かれた図書館員お手製のポップが立てられているという、よくわからないところだ。
で、この『555』は日本文学の棚でひときわ目立つ場所に置かれていた。簡単な粗筋紹介つきだ。そこで興味をそそられ、借り出してきた次第。
ノベライズ作家桜庭一樹の晩年の作なので、文体は今とあまり変わらない。ああ、いつもの桜庭節だ。でも、キャラクターの設定やストーリー展開は当然のことながらオリジナル作品とは全然違う。そのギャップが楽しかった。
黒歴史時代からノベライズ作家を経てラノベクイーンとなり、非ラノベ媒体にはミステリとSFで進出を果たして、今やジャンル小説の枠を超えようとしている小説家、桜庭一樹。あ、マンガ原作に手を染めたこともあったっけ。『555』はそのめまぐるしい軌跡の通過地点の一つに過ぎないともいえるが、きっと件の図書館員の琴線に触れるものがあったのだろう。
ところで、私見では桜庭一樹の最先端*1は「桜庭一樹読書日記」*2だ。文体の実験、着眼の妙、凝りに凝った挑戦的なエッセイだと思う。でも、きっと桜庭一樹はエッセイの領域に安住することもないだろう。次は戯曲か? 現代詩か?

*1:おかしな言い回しで申し訳ない。

*2:リンク先をどこにすればいいのか迷うが、とりあえず最新の第4回にリンクしておく。