チョコレートの苦味と雑味

野性時代 vol.39 (2007 2) (39)

野性時代 vol.39 (2007 2) (39)

米澤穂信の<古典部>シリーズ最新作「手作りチョコレート事件」は非常にシンプルなアイディアをもとに構築されている。どれくらいシンプルかといえば、英単語2つで言い表すことができるほどだ。そのフレーズは作中には出てこないが、既読の人には一目瞭然、未読の人にはちょっと教えられない。
「『手作りチョコレート事件』を読んだけど、わからなかったよ」という人は、
同様のアイディアが『夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)』にもみられるので参照されたい。こちらは、終章のタイトルとして目次にも明記されている。
さて、骨格となるアイディアがシンプルだからといって、完成作もまたシンプルであるとは限らない。どちらかといえば「手作りチョコレート事件」は複雑な味わいをもつ小説に仕上がっている。ほろ苦さの達人という異名をもつ米澤穂信だけあって、読み終えたときの何とも言えないやりきれなさは名人芸の域に達しているが、基調となる苦味以外に別の味わいも紛れ込んでいるように思われる。
盗まれた手作りチョコレートの謎に対する千反田の興味をしずめるために奉太郎が話して聞かせたストーリーは、なるほどそのようなストーリーを作らねばならなかった事情をみるとこの作品本来の苦味を引き立たせるものではあるのだが、そのストーリーがあとあとに残すものは苦味というより雑味だろう。これがちょっと気になった。
もっとも、「手作りチョコレート事件」は一つの謎を巡る物語としては完結してはいるものの、<古典部>の面々の人間関係を明らかにするという機能ももっており、その意味では独立した作品ではない。よって、現段階で雑味だと思われた要素が、今後のシリーズ展開で別の意味をもつことも十分考えられる。油断は禁物だ。

追記(2007/01/20)

やはり「手作りチョコレート事件」の核となるフレーズを書いておいたほうがいいような気がしてきたので、以下に示す。





































Broken Heart