15年待ちました

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

1992年の『双頭の悪魔 (黄金の13)』以来、15年ぶりの江神二郎シリーズ*1の長篇第4作だ。えらく待たされたものだ。
『双頭の悪魔』のときも「えらく待たされたものだ」と思った。1989年にデビュー長篇『月光ゲーム―Yの悲劇’88 (鮎川哲也と十三の謎)*2と第2作『孤島パズル』が立て続けに出て、ミステリファンの注目と期待を集めたものの、1990年にはノンシリーズの『マジックミラー (講談社ノベルス)』が出たきりで、1991年には1冊も出なかった。もしかして作家を廃業したのかと思った*3が、ようやく1992年になって待望の新刊『双頭の悪魔』が刊行された*4。当時、今よりも貧乏でハードカバーには滅多に手を出さなかったが、江神シリーズ2年半ぶりの新刊だし前評判も非常に高い作品だったので、その厚さに少しひるんだ*5ものの、即座に買ってその日のうちに一気に読んだ。
至福の読書体験だった。
それから長い月日がすぎた。
もう、学生時代のアリスには会えない*6ものと諦めた。作家となったアリスにはあまり魅力を感じなかった。有栖川有栖の新刊が出てもほとんど読まなくなった*7。それからさらに長い月日がすぎた。
そして、新刊が出た。
『双頭の悪魔』をさらに上回る1300枚に怖じ気づいたものの、やはり即座に買ってすぐに読んだ。残念ながら読んでいる最中に日付が変わってしまったので「その日のうちに」読んだというと嘘になるが。
そういった事情の数々が積み重なって、この小説については冷静な感想を述べることができない。作中でも言及されているが、物語の導入部分が『双頭の悪魔』と非常によく似ているのが気になったことと、「長さがまるで気にならない」と言い切ってしまうには随所にゆるみがあった*8ことが難点といえば難点だが、それ以上に迫ってくるものがある。
いいミステリを読みました。
さて、次は何十年後だろう?

追記

上の文章をアップしたから各所の感想文を巡回してみたところ、何箇所かで例のダイイングメッセージに違和感を表明しているのを見かけた。ああ、そういえばそんなのもあったなぁ。長い小説だったので読んでいる間にダイイングメッセージのことは忘れてしまっていたが、これはやっぱり欠陥というべき*9でしょう。
これほど長いと仕上げの段階で綻びが出るのは仕方がないのかも。やっぱりミステリは短いにこしたことはない。

*1:「学生アリスシリーズ」という言い方をすることもある。

*2:その前に短篇「やけた線路の上の死体」が鮎川哲也編集の鉄道ミステリアンソロジー無人踏切―鉄道ミステリー傑作選 (光文社文庫)』に発表されており、この奇妙な名前のミステリ作家の存在は知っていた。『月光ゲーム』の予告が出たときには「おお、この名前のままで単著を出すのか!」と驚いたものだ。

*3:当時、講談社ノベルス東京創元社から立て続けに出た新人ミステリ作家の中には数冊で筆を折ったりミステリ以外のジャンルに転進したりする人が何人もいた。

*4:海燕氏は江神シリーズの3冊が立て続けに出たかのように紹介しているが、これは何か勘違いしているのだろう。

*5:そのころから、長い小説は苦手だった。

*6:この長い空白期間の間にも短篇はいくつか発表されているので、この表現はやや大げさだが、筆の勢いということで勘弁してほしい。

*7:最後に買ったのは『マレ-鉄道の謎 (講談社ノベルス)』だが、これは50ページほどで読むのをやめてしまった。読み通したのは文庫で買った『幻想運河 (講談社文庫)』がたぶん最後だったはず。

*8:もっとも「いや、これはゆるみじゃなくてゆとりだ」と言われたら、論破する言葉を持たない。「書かなくてもいいことなら、書かない。書かなければならないことなら手短に」というモットーに共感できる人だけ頷いてください。

*9:ただし、何行か書き足せばごまかしがきく程度の欠陥だと思う。