米澤穂信と「探偵の敗北」

雲上四季 - 米澤穂信の話|青春ミステリの条件と古典部シリーズを読んで思いついたこと。
米澤穂信の小説に登場する探偵役は謎に勝って女に負ける。
どういうことか。
まず、基本的に米澤作品の探偵役は謎解きに失敗しないということ。『愚者のエンドロール (角川文庫)』の途中経過をみるとちょっと微妙だけど、あくまでも「基本的に」なので目くじらを立てないでほしい。探偵役は提示された謎を楽々とクリアしている。
で、探偵役の自意識は肥大し、全能感に酔いしれ、かなりアレな状態になっているところを、ヒロインまたは準ヒロインの女性にガツンとやられてへなへなになってしまう。これが米澤作品における「探偵の敗北」だ。
もちろん、この構図にあてはまらない作品もある。たとえば、「Do you love me?」とか「11人のサト」とか。どちらも主人公は女性だし、後者はミステリですらない*1。だが、例外にこだわっていては先に進まないので、無視しよう。
さて、興味深いのはここからだ。男性探偵が事件の謎解きには成功するが対女性関係で挫折するという構図だと、すぐに思いつくのは恋愛がらみの話で、要するに探偵が女性に振られるという話になりそうなものだが、米澤作品にはそのような意味での「探偵の敗北」を扱ったものがひとつもない。そもそも、恋愛を正面からテーマにした作品がほとんどない*2のだから当然といえば当然なのだが。
米澤作品の「探偵の敗北」には、失恋などといった単純な要素ではなく、より複雑で屈折した人間関係が絡んでいるのは間違いない。そのメカニズムをうまく解明することができれば米澤穂信論が書ける……と思う。誰か挑戦してみませんか?

*1:もっとも、ミステリの枠には収まらない『ボトルネック』は「謎に勝って女に負ける」という構図で説明できる。

*2:いちばん恋愛小説に近接しているのは『遠まわりする雛』だが、この先どうなるかがわからないので今のところはなんともいえない。