楽しい魔方陣小説

美しき魔方陣―久留島義太見参! (小学館文庫)

美しき魔方陣―久留島義太見参! (小学館文庫)

恥ずかしながら、この本を読むまで久留島義太と久留島喜内が同一人物だということを知らなかった。
久留島喜内の名を知ったのはたぶん中学生の頃だ。子供向けの将棋雑学本に昔の詰将棋作家として紹介されていたのを読んだ記憶がある。その本はもう捨ててしまったので、今となっては詳細はわからない。
久留島義太のほうは高校に入ってから知った。高校図書館の放出本の中に「数学セミナー」の和算特集号が混じっていて、それをもらってきたのだ。この本は捨てた覚えがないので、探せばまだ家の中のどこかにあるはずだ。
そういうわけで、久留島義太と久留島喜内の両方を知ってはいたのだが、和算にも詰将棋にもさほど関心がないので、ふたつの名前が結びつかなかったのだ。そういえば、黒岩涙香と高山互楽が同一人物だと知ったのも、両者の名前を初見してからかなり経ってからのことだった。
……前置きが長くなった。
『美しき魔方陣』は、この久留島義太=久留島喜内を主人公にして、彼の詰将棋和算に関する業績をベースにしつつ、恋と友情、陰謀と知略、チャンバラと立体魔方陣勝負を盛り込んだ愉快な時代小説だ。活劇小説ではさまざま勝負が扱われるが、立体魔方陣などというレアなネタで勝負した小説を読むのは初めて*1だ。特殊テーマを扱っているわりには難解なところは全くなく、すらすらと読めた。この小説に取りかかる前に『みすてぃっく・あい』を読んでいたのだが、これがなかなかの難物で、休み休みしながら読み進めていたのだが、そっちをいったん中断して『美しき魔方陣』を読み始めたら急に読書スピードがあがったので、「やっぱり文章の読みやすさって大切だよなぁ」と思った。
登場人物が出てくるたびに、その人物の先祖や関係者の名前がやたらと出てくるので、時代小説に不慣れな人にはややとっつきにくいかもしれないが、人物紹介の部分は適当に読み飛ばしても内容の理解には全く差し支えない。最近出たばかりだから入手しやすいし、文庫本なので値も張らない。ちょっと毛色の変わった小説を読んでみたい人にお薦め。

*1:それ以前に、和算をテーマにした小説も『算学奇人伝 (祥伝社文庫)』しか読んだことがない。そのうち『算法少女』を読もうと思ってはいるのだが……。