何か物足りない「総力特集」

野性時代 第56号  62331-57  KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)

野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)

今日発売の野性時代公式サイト)は「ようこそ古典部へ! ぼくたちの米澤穂信」と題して、66ページにわたる特集を組んでいる。
インタビューあり、全作品解説*1あり、コミカライズ*2あり、対談あり、読切短篇あり……と揃っていいるのだが、どうも昨年の『ユリイカ2007年4月号 特集=米澤穂信 ポスト・セカイ系のささやかな冒険』に比べると物足りない。
何が足りないのだろう?
評論がなかった!
米澤穂信論は書きにくいようで、「ユリイカ」でも相当苦しみながら書いたと思われる、あまり出来のよくない文章をいいくつか読んだが、でも全く評論がないのは寂しいものだ。専門の評論家が批評理論を駆使してテクニカルな評論を書くというのでなくても、たとえば同業者の眼でみた米澤穂信というような記事でもいいから、何か批評的な内容の文章があればよかったのに、と思う。
それはさておき。
今回の特集には久々の古典部シリーズ*3最新作「連峰は晴れているか」が掲載されている。「ヘリが好きなんだ」という発言*4の謎を縦糸にして、折木奉太郎の自発的な(!)謎解きを横糸にした好短篇……と言いたいところだが、これもちょっと物足りなかった。ミステリの謎として小粒なのは仕方ないが、「ヘリが好きなんだ」ということばを発した状況の説明とか、発言主の人柄を示すエピソードとか、もう少し補強材料があったほうがよかったと思う。
あと、瑣末かもしれないが、旧警察法の時代ならいざ知らず、現代の新聞記事に「神山市警察」などという言葉が出てくるのはおかしなことだと思った。

*1:ただし書籍の形で出版されたものに限る。

*2:ただし6ページだけ。

*3:もちろん、小市民シリーズに比べればブランクは短いわけだが。

*4:これを読んで「I can't swim.」というフレーズを思い出した。