乗って残そう北総線

ニュータウン鉄道は概して運賃が高いものだが、北総鉄道の運賃はその中でも特に高い。日常生活では全く用のない鉄道なので高かろうが安かろうがどうでもいいのだけど、昨年乗りつぶしのために訪れたときには「なんで関東にはスルッとKANSAI3dayチケットがないのか!」と嘆き悲しんだものだ。ついでにいえば、東葉高速鉄道も相当高かった記憶がある。
ただ、上の記事をみて違和感をおぼえた箇所が2つある。ひとつは「3分乗って300円は異常だ」という発言、もうひとつは「走行ルートは違っても出発地と目的地が同じなら同一運賃が原則」という発言だ。前者については、交通サービスの受益を時間で表していることが引っかかった。後者は、原則と言われていることがむしろ例外ではないかと思った。
一般に鉄道運賃は営業キロ*1をベースに設定されている。鉄道に1キロ乗るよりも10キロ乗るほうが、より多くのサービスを受けることになるから、その分運賃も高くなる*2。また、列車の速度が同じなら、1分乗るよりも10分乗るほうがより多くのサービスを受けることになるが、実際には路線によっても列車種別によっても速度はばらばらなので、必ずしもそうは言えない。乗客の実感としては受益量を時間で表すのはしっくり来るから「3分乗って300円」という言い方はわかりやすいが、運賃の不当性を訴えるのなら「4キロ乗って300円は異常だ」というように言うほうがよかったように思う。なお、北総線運賃値下げを実現する会の運賃比較(その1その2*3では、当然のことながら距離で比較している。
で、後者のほうだが、確かにJRの大都市近郊区間や地下鉄などでは乗車経路にかかわらず*4乗車駅と下車駅が同じであれば運賃も同じに設定している。だが、同じJRでもたとえば蘇我から安房鴨川へ行くのに内房線を使うか外房線を使うかで運賃が違ってくる*5。もちろん、別会社の路線を使う場合には経路によって運賃が異なることのほうが当たり前だ。同一乗降駅同一運賃のほうが利用者にとっては便利で理想であることに違いないが、それが鉄道運賃の原則にはなっていないのが現状だ。
と、ケチをつけてはみたが、別にそれぞれの発言者の意見に異論があるわけではない*6。ただ、北総線の運賃値下げは実現するのだろうか?
成田高速鉄道線の開業により、東京方面から成田空港へのアクセスルートの一部として乗客が急増することは間違いない。だが、JRやリムジンバスなどとの兼ね合いもあるから、空港客にあまり多大な負担を強いることはできない。運賃と特急料金を合算したパッケージ価格をディスカウントすることになれば、さほどの増収は見込めず、ニュータウン住民の悲願である基本運賃の値下げにまで余裕が回らない、というシナリオも考えられる。運賃値下げで乗客が増えて、さらにニュータウンの人口も増えるのならいいのだが、都心への通勤人口自体が頭打ちになっている現状で単価切り下げを行うのは勇気がいることだろう。
鉄道は公共財であり鉄道経営は単なる営利活動ではないから多少の赤字は覚悟の上で運賃を値下げするという政治的判断を千葉県が下すのかどうか、その場合の公金投入に沿線住民以外の人々が納得するのかどうかが、この問題の鍵だろう……と最後は無難にマスコミ的にまとめてみた。

追記

はてなブックマークでこんなコメントがついていた。

2008年07月05日 REV

開通を見越して一戸建てを建てたが、用地買収が完了せず、未着工の数キロを眺めながら定年を迎えた人の話を読んだような記憶がある。左翼の人なら万歳三唱な出来事だろうけど

なんで左翼の人なら万歳三唱なのだろう?

追記の追記(2008/07/06)

同じくブクマコメントから。

2008年07月06日 mahal 雑ラン1, 鉄道

ただ、東京近郊の都内通勤路線が一般に同一乗降駅同一運賃を旨とする以上、都内通勤路線たる北総がそれの例外とされるのはどうかなと。

東京近郊の都内通勤路線でも、たとえば拝島と高田馬場の間の運賃はJRだと620円*7だが西武だと390円となっているように、一般に会社が違えば運賃も違う。総武・中央線と地下鉄中央線のように相互乗り入れを行っている場合はSUICAだと同一運賃になるが、乗車券を買えばやはり運賃が異なる*8
成田高速鉄道開通後の北総線の運行状況については、京成成田新高速鉄道線 - Wikipediaでは、空港直通運転は全線京成が運行、北総線内のみの運行は従来どおり北総鉄道となっている。裏をとっていないので、この記事が信用できるかどうかはわからないが、仮にそこ書かれているとおりの運行形態になるのなら、北総線内のニュータウンから都内への運賃はそのままで、全線乗り通した時の運賃だけ京成本線経由の運賃に揃えるということも考えられる。

*1:営業キロ」の概念を説明すると長くなるので、省略する。この話題に関しては路線延長とだいたい同じものだと考えても、特に支障ない。

*2:ただし、通常1キロと10キロで運賃が10倍になることはない。

*3:どちらも2003年当時の運賃で比較しているので、当時未開業だったつくばエクスプレスは比較対象に入っていない。ただ、東葉高速鉄道線は既に開通していたはずなので、近隣の鉄道として対象に加えておいたほうがよかったのではないかと思う。

*4:ただし、同一駅を2回通らないことなどの制約もある。

*5:いま、えきねっとで調べたら内房線経由で1890円、外房線経由だと1450円だった

*6:というか、上の記事で紹介されている発言が、実際に言ったことと同じかどうかもわからない。意図的な捏造ではなくても、字数とのかねあいで要約したせいで、元の発言のニュアンスが失われてしまうのはよくあることだ。

*7:東京近郊区間内なので八高線経由でも青梅線経由でも同額。

*8:東京地下鉄東西線 - Wikipediaの「直通運転」の項を参照。