ある連想

はてなブックマークでも大いに注目されているこの広告を見て、真っ先に連想したのは『ドグラ・マグラ』だった。具体的にいえば、呉青秀の死美人画だ。

 それから順々に白紙の上に現われて来た極彩色の密画を、ただ、真に迫っているという以外に何等の誇張も加えないで説明すると、それは右を頭にして、両手を左右に伏せて並べて、斜(ななめ)にこっち向きに寝かされた死美人の全長一尺二三寸と思われる裸体像で、周囲が白紙になっているために空間に浮いているように見える。それが間隔三四寸を隔てて次から次へと合わせて六体在るのであるが、皆殆ど同じ姿勢の寝姿で、只違うのは、初めから終りへかけて姿が変って行っている事である。

 すなわち巻頭の第一番に現われて私を驚かした絵は、死んでから間もないらしい雪白(せっぱく)の肌で、頬や耳には臙脂(えんじ)の色がなまめかしく浮かんでいる。その切れ目の長い眼と、濃い睫毛(まつげ)を伏せて、口紅で青光りする唇を軽く閉じた、温柔(おとな)しそうなみめかたちを凝視していると、夫のために死んだ神々しい喜びの色が、一パイにかがやき出しているかのように見えて来る。

 然(しか)るに第二番目の絵になると、皮膚(はだ)の色がやや赤味がかった紫色に変じて、全体にいくらか腫(は)れぼったく見える上に、眼のふちのまわりに暗い色が泛(うか)み漂(ただよ)い、唇も稍(やや)黒ずんで、全体の感じがどことなく重々しく無気味にかわっている。

 その次の第三番目の像では、もう顔面の中で、額と、耳の背後(うしろ)と、腹部の皮膚の処々が赤く、又は白く爛(ただ)れはじめて、眼はウッスリと輝き開き、白い歯がすこし見え出し、全体がものものしい暗紫色にかわって、腹が太鼓のように膨(ふく)らんで光っている。

 第四の絵は総身が青黒とも形容すべき深刻な色に沈みかわり、爛れた処は茶褐色、又は卵白色が入り交(まじ)り、乳が辷(すべ)り流れて肋骨が青白く露(あら)われ、腹は下側の腰骨の近くから破れ綻(ほころ)びて、臓腑の一部がコバルト色に重なり合って見え、顔は眼球が全部露出している上に、唇が流れて白い歯を噛み出しているために鬼のような表情に見えるばかりでなく、ベトベトに濡れて脱け落ちた髪毛(かみのけ)の中からは、美しい櫛や珠玉の類がバラバラと落ち散っている。

 第五になると、今一歩進んで、眼球が潰(つい)え縮み、歯の全部が耳のつけ根まで露われて冷笑したような表情をしている。一方に臓腑は腹の皮と一緒に襤褸切(ぼろき)れを見るように黒ずみ縮んでピシャンコになってしまい、肋骨(あばらぼね)や、手足の骨が白々と露われて、毛の粘り付いた恥骨(ちこつ)のみが高やかに、男女の区別さえ出来なくなっている。

 最終の第六図になると、唯、青茶色の骨格に、黒い肉が海藻のように固まり附いた、難破船みたようなガランドウになって、猿とも人ともつかぬ頭が、全然こっち向きに傾き落ちているのに、歯だけが白く、ガックリと開いたままくっ付いている。

同じこと考えた人、ほかにもいるよね? ね?