「センサス」は国勢調査のことではありません

【ワシントン=勝田敏彦】海洋生物の分布を地球規模で調べる「海洋生物センサス(国勢調査)」を進める国際グループが15日、北極と南極の海に235種もの同一とみられる生物が生息していたと発表した。長距離の移動ができない生物も含まれており「なぜ1万キロ以上も離れたところにいるのか」と研究者を驚かせている。

大方「Census」を英和辞典で調べたら「国勢調査」という訳語が載っていたから、というような理由でこんなことを書いたのだろうが、国際グループが地球規模で調べる調査のことを「国勢調査」と言い表す言語感覚が信じられない。「センサス」というのは、国勢調査をはじめとする悉皆調査またはそれに準じる大規模調査のことだ。新聞記者なら当然知っているべき言葉だし、仮に知らなくてもこの文脈で「国勢調査」などと手拍子で訳してしまってはいけないのは当然のこと。
ちなみにCensus of Marine Life (CoML) Secretariat Home Pageでは、次のように説明されている。

海岸近くに多くの人々が住まい、海洋汚染や、過剰な海産物の漁獲が問題となっている地球上で、海洋資源の減少もしくは世界規模での変化の現実を明らかにするためには世界規模の包括的な海洋センサス(個体数調査)が必要であり、その結果、私たちは自分たちがいかに無知であるかを知ることでしょう。何世紀にもわたって蓄積された多くの歴史的記録、これまでにない研究を可能にする新技術と、研究者同士を結ぶコミュニケーション手段が、その様なセンサスの実現を可能にしました。海洋生物のセンサス(CoML)は2000年に始まり、生命、環境と技術の様々な分野の専門家によって構成される国際科学推進委員会の舵取りによって展開しています。

「個体数調査」というのはかなり大胆な言い換えで、多くのセンサスに共通の言い換え語としては使えないが、海洋生物センサスの場合には個体数を調べることに重きを置いているのだろうから、これはこれでいいのだと思う。
なお、国立国語研究所「外来語」言い換え提案では

  • 調査対象をある方針によって抽出して調査を行う「抽出調査」あるいは「標本調査」に対して,すべての対象を調査する「全数調査」を指して,「センサス」と言うのが一般的である。
  • 標本調査であっても非常に大規模で,全数調査と同程度の詳しい結果が得られる調査を「センサス」と呼ぶことがある。「大規模調査」は,その場合の言い換え語である。また,全数でないことを示して「大規模標本調査」と言い換えることもできる。
  • 「センサス」は,総務省が5年ごとに実施する最大規模の調査を指して使われることがあるが,この場合は「国勢調査」の語が定着している。
  • 全国規模の調査であることを示したい場合は,「全国調査」と言い換えることもできる。
  • 「○○センサス」などの調査名を引用する場合なども,「○○についての全数調査」「○○についての大規模調査」「○○全国調査」などと,説明を付与することが望まれる。

と提案されている。
「海洋生物センサス」を言い換えるなら、「(国際)海洋生物基礎調査」というのが自然*1ではないかと思う。

おまけ
国勢調査のイメージキャラクターセンサスくん

*1:もとの「Census of Marine Life」には「国際」に相当する語はないが、環境省自然環境保全基礎調査の中に海域生物調査という調査があるので、それとの区別を明確にするためには「国際」を付けておいたほうがいい。