この考え方には「ものとする」が13回使われています

ブクマ経由で知って読んでみたのだが、やたらと「ものとする」が出てきたのに閉口した。
「ものとする」というのは法令や契約書などでよく使われる表現だが、どうも読んでいて不安な気分になる。正当な根拠と権限のもとで義務を課すのであれば「しなければならない」とはっきり書けばいいのに。
そもそもこれは法制上どのような位置づけの文書なのだろうか? どう見ても条例とか規則*1ではない。だったら要綱とか要領とか*2の類だと思うのだが、題名には「要綱」とも「要領」とも謳っておらず、かわりに「考え方」と書いてある。この「考え方」という言葉は、ふつうに「私の考え方は君とはちょっと違う」とか「人の生育環境はものの見方や考え方に与える」とか、そういった用法とは違っているようだ。「考え方」という種類の法規文(みたいなもの)なのだろう。でないと、本文の「この考え方」という言い回しの意味が通らない。
変だな、と思って調べてみると、この文書は今年2月に意見公募にかけられたもの*3で、その後東京都安全・安心まちづくり条例【PDF】第18条の3に基づく繁華街等における安全・安心の確保に関する指針【PDF】に進化(?)したものだとわかった。そこでは、不自然だった「この考え方」はすべて「この指針」に置き換わっている。文面はだいたい同じだが、「2 基本的な考え方」に次の一文は付け加わっている。

(7) この指針は、事業者、地域住民、ボランティア及び来訪者に対し、繁華街等の安全・安心を自主的に確保するための具体的な手法等を示すものであり、何らかの義務を負わせ、又は規制を課すものではない。

後から付け加えたのでこの場所に置いたのだろうが、こういう大事な文章は最初に掲げるべきではないかと思った。
もう一つ気になるのは次の箇所*4

(8) 大学、専門学校等教育機関は、地域社会の一員として人材面等において参加、協力する。

教育機関の例として大学を挙げるのはともかく、「専門学校」という言葉は不適切だ。なぜなら、「専門学校」とは学校教育法第126条により専門課程を置く専修学校が称することができる名称に過ぎず、そういう学校の種類があるわけではないからだ。極端な話、「専門学校」と名乗れば専門学校だし、そう名乗らなければ専門学校ではないとも言える。大学と専門学校をこのように並置するのはカテゴリーミステイクだ。
そりゃそうと、「大学、専門学校等教育機関」の「等」にはどこまで含まれるのかね? 幼稚園も入るのか? 図書館や博物館は? 代々木アニメーション学院アミューズメントメディア総合学院も東京校は繁華街の近くにあるけれど、「地域社会の一員として人材面等において参加、協力」を求めるの?

*1:ここでいう「規則」とは一般的なそれではなくて地方公共団体の長が地方自治法第15条の規定に基づき制定するものをいう。

*2:要綱と要領の違いはよく知らないが、一つの事柄について要綱と要領の両方がある場合はふつう要綱で大まかな決め事を行い、細部を要領で詰めるらしい。

*3:その意見募集結果はこちら

*4:これは「繁華街等の安全・安心確保に関する考え方」と「繁華街等の安全・安心確保に関する指針」の両方に共通。