一本足の蛸

その朝、彼女が深い眠りからさめると、辺りにはむせるほどの磯のにおいがたちこめていた。そこに巨大な蛸がいることに気がつき、彼女は驚いた。さらに驚くべきことに、その蛸は彼女自身だった。
「これはいったいどうしたこと? 私はどうしてこんな姿になってしまったの!」彼女は叫んだ。いや、叫ぼうとしたが声が出なかった。なぜなら彼女は蛸なのだから。
彼女は動転したが、しばらく経って次第に落ち着いてきた。すると、自分の身体に足が一本しかないことに気づいた。頭とも胴体ともつかない重くてぐにゃりとした本体から、無数の吸盤に覆われた気味の悪い野太い足がたった一本だけ生えていた。足は彼女の意志とは無関係にうねうねと波打つように蠢いていた。その不規則な動きを見るうちに彼女は乗り物酔いにも似た吐き気を催した。
彼女は墨を吐いた。