創作

目玉・死時計

…………ジリリ――――――ンンン――――――ンンンン………………。 目覚まし時計が鳴っている。朝だ。起きないと。でももうちょっと。あと5分だけ。 こんな時、「正木式時間延長目覚まし時計」はいかがですか? この目覚まし時計を使えば、なんと起床時刻になっても簡単に時間…

はつ恋

今日こそはコウコに思いを打ち明けよう、と決心した日の朝、教室に彼女の姿はなかった。 予鈴が鳴り、担任の鬼瓦がドアを開けた。 「今日はみんなに重大なお知らせがある。もう知っている者もいるだろうが、四条コウコ君がこのたびお父さんの仕事の都合で」…

一生一秒物語

某年某月某日、コペル君が「命あっての子種さ。くわばら、くわばら」と言って肩をすくめると、「なあに、死んだら死んだでマンドラゴラの種になるさ」とアンポンタン・ポカン君が言い返した。

可哀想な犬

「本当は私、犬より猫が飼いたかったの」という飼い主の言葉を偶然聞いてしまったミケは愕然とした。だが、忠犬たる者、主人の望みに沿うよう努力すべきではないかと思い直し、精進に精進を重ねてとうとう猫の姿と声を獲得した。 にゃ〜。 にゃ〜。 もはやミ…

この世でもっとも短い(たぶん)リドルストーリー

「右の道が天国へ通じていて、かつ、私が嘘つきであるか、または、左の道が地獄へ通じていて、かつ、私が正直者であるか、そのどちらかです」と死後の世界の道案内は述べた。さあ、右と左、どっちの道を行く?

濡れた浴場 徳田新之助21人

真っ昼間の銭湯。がらんとした浴場で二人の男が褌一丁で向かい合っている。 「サブちゃん……」 「ケン……」 「サブちゃん」 「ケン」 「……サブ……ちゃん」 「……ケン……」 ただ互いの名前を呼び合うだけの二人。ほかに言葉はいらない。一緒にバラ焼きを食った仲だ…

打ち上げ花木

その年は特に異常気象が続いたというわけでもないのに、七月中旬から桜の開花が始まった。記録によれば、最初の開花は七月十一日のことで場所は礼文島だった。その後、桜前線は順調に南下し、七月三十一日(その年の七月は摩訶大大の月であったため三十五日…

誰でも作れる密室

まえがき 以下の小説は文芸スタジオ回廊「雲上の庭園」第2回募集に応じて投稿するために書いたものですが、後述する事情により投稿するのをやめたものです。構想10分執筆1時間、うち40分くらいは1000字以内に収めるための推敲だったという、お手軽チープな作…

あたらしい現実のはなし

まえがき 『幻視コレクション〜新しい現実の誕生〜』用に昨日書いた小説がタイトル分字数オーバーしたのでもう1本書いてみたのだが、どうやら先に投稿したほうを受付してもらえたようなので、投稿するのをやめた。「新しい現実の誕生」というテーマを意識し…

もの −広瀬正の同名作品に基づくショートショート−

「はて、面妖な?」 江戸城中に降って沸いたように現れた、そのものを手に取った幕閣たちは一様に首を傾げた。南蛮渡来の舶来品を見慣れた彼らにとっても、そのもの−掌にのるくらいの大きさで卵を半分に切ったような形のもの−が何であるのか全く見当がつかな…

弦楽のための編成と分類

20世紀最後の20年間に愛知県が生んだ最も偉大な室内楽作曲家、猫釜神康氏の弦楽アンサンブルの分野における業績を紹介しよう。

ダメの歌

今日もやっぱりダメでした〜 明日もきっとダメでしょう〜 だって昨日もダメだったから〜 このままずっとダメなのよ〜 (*) ダメなものはダメ(ダメダメダメダメ) ダメなものはダメ(ダメダメダメダメ) 誰が何と言おうとも(ダメダメダメダメ) どうせ私…

おタケさんとスキヤキ

勉強部屋として借りている古アパートに向かう途中に商店街に立ち寄ると、アパートの隣人であるおタケさんが買い物籠を両手で持って歩いていた。籠の中には長葱や白菜が入っている。おタケさんは独り暮らしなのにあれほど沢山買い込んでどうしようというのか…

特別料理という名の特別料理

まえがき 先日、ここにも書いたとおり、やる夫が小説家になるようです:ハムスター速報 2ろぐを読んで小説が書きたくなった。でも、何も考えずに書いてみると、こんなのしか書けなかった。そこで、もうちょっとまともにプロットを立てて書こうと思い、お話カ…

蛇口

年老いた行商人が蛇口を鞄に詰めて街から街へと売り歩いていた。ただの蛇口ではない、人体専用蛇口だ。 ふつうの蛇口は水道管に取り付けるが、人体専用蛇口は人間の体に取り付ける。 ふつうの蛇口は捻れば水が出るが、人体専用蛇口は捻ると血が出る。 水道が…

椰子の実ジュースを飲みに中華街へ

フェアだとかアンフェアだとか、叙述がどうとか倒叙がこうとか、一部の偏狭なミステリファンの間でしか通用しない話につきあうのに飽き飽きしたので、気晴らしのために出かけることにした。 とくにあてもなく山手線に乗っていると、なぜだか急に椰子の実ジュ…

天国と地獄とアレルギー症

問題篇 むかし、あるところに猫釜神康という名前の青年がいました。猫釜さんは実業家を目指して日夜頑張っていましたが、そっち方面の才能が全くなく、とうとう莫大な借金を抱え込んでしまいました。 世をはかなんだ猫釜さんが見晴らしのいいビルを探して街…

チョコレート殺人事件

香気溢れる密室 雪子は夫が若い愛人と密会している現場に踏み込み両者を重ねて四つにした後扉の閂と受け金具の間にチョコレートを挟み込んでから現場を脱出しその後チョコレートが溶解して閂がかかり現場は密室状態となったが扉付近のチョコレートは勤勉なる…

中華麺工房:迷い猫

きつね 500円 たぬき 江戸たぬき 450円 京たぬき 550円 大坂たぬき 500円 杏仁豆腐 480円 レモネード 380円

自由律

電車内にて 痴漢専用車輌には 痴漢以外は誰も乗らない 公園にて エチケット袋には エチケットがみっしり詰まっている 役所にて 分煙するなら気密にしろ 彼奴らの煙が喉にしみる 街角にて ごみ箱ひとつ 「その他のごみ」だけ入れなさい ???にて 春は別れの…

電車の席はみな優先座席

昨今の若者の道徳心の欠如を天帝は怒り、そして嘆いた。 「ああ、儂の若い頃だったら、老人が電車で立っていたら若者はみな進んで席を譲ったものなのに」 天帝の若い頃に電車があったのかどうか、あるいは天帝に若い頃があったのかどうか、筆者は知らぬ。知…

赤い靴

赤い靴を履いていた女の子は異人さんに連れられてバレリーナとなり死ぬまで踊り狂いましたとさ。

たまねぎ娘

私がはじめてたまねぎ娘に会ったのは、ある夏の日射しの強い午後のことだった。彼女は日傘を差して公園のベンチに腰掛け、その目からは涙が溢れていた。 「ねえ、どうして泣いているの?」 通りかかった小学生くらいの男の子がたまねぎ娘に話しかけた。 「何…

定型詩その1とその2

定型詩その1 「猫さかる」これも俳句の季語だって 定型詩その2 短歌のつ くり方など知 らないよと にかく五七五 七七だろう?

Mein junges Leben hat ein End

やあ、今日はいい天気だ。暑過ぎもせず、寒過ぎもせず、空は快晴、風はそよ風、全くもって絶好のドライブ日和だ。そして、助手席には大好きなあの娘。友達以上恋人未満の関係が長く続いて不安だったけれど、思い切って告白してみれば頬を赤く染めて小声で「…

失恋でもしてみたら

昼前の授業中に鈴木キヨシがシャーペンを上唇と鼻の間に挟んで眉根に皺を寄せながら、「あー、かったりぃ。なんか面白いことないかなぁ」といつものようにぼやいていると、隣の席の山田マリコがこう言った。 「じゃあ、失恋でもしてみれば?」 「失恋?」 キ…

早書き小説「わらしべ長者」*1

むかしむかしあるところに貧乏だが野心に燃える若者がいた。 彼は夢の中で観音様の姿を見かけ、礼拝したところ、観音様は次のように言われた。 「目が覚めたらあなたの右手にあるものが握られているはずなので、それを大事に扱いなさい。きっとあなたに福を…

創世記

尊師ローケーシャを礼拝したてまつり、知恵浅き門弟たちが世のなりわいの諸相を学ぶよすがに、『日本標準産業分類(平成14年3月改訂)』を解説しよう。 はじめ世界は混沌であった。種々の経済活動が分類されることなく、人々は日々せわしく暮らしていた。 そ…

濡れない女

大野真智子は濡れない女だ。どのくらい濡れないかといえば、時間雨量30ミリを超える土砂降りの中、傘も差さずに家から学校まで20分かけて歩いても、下着はもちろん制服も乾いたままで、雨しずくも泥しぶきも全く付着していない、という具合だ。どういう仕掛…

濡れない女

大野真智子は濡れない女だ。どのくらい濡れないかといえば、時間雨量30ミリを超える土砂降りの中、傘も差さずに家から学校まで20分かけて歩いても、衣服には雨しずくも泥しぶきも全く付着していない、そんな具合だ。どういう仕掛けでそうなっているのかはわ…