早書き小説「わらしべ長者」*1

むかしむかしあるところに貧乏だが野心に燃える若者がいた。
彼は夢の中で観音様の姿を見かけ、礼拝したところ、観音様は次のように言われた。
「目が覚めたらあなたの右手にあるものが握られているはずなので、それを大事に扱いなさい。きっとあなたに福をもたらしてくれるでしょう」
目が覚めると、確かに夢で観音様が告げたとおり、右手には一本のわらしべが握られていた。彼は「いったいこれがどんな福を授けてくれるのだろう?」といぶかったが、とりあえずわらしべを持ったまま街に出た。
すると、そこに一人の恰幅のいい紳士が現れて「君、君、どうか私にそのわらしべを譲ってくれないかね」と言った。
「いや、これは観音様にもらった大切なわらしべだから……」
「そう言わずに、ぜひ譲ってくれたまえ。もちろん、ただとは言わない。そうだ、私の全財産を君に譲ろう」
こうして若者は一瞬のうちに街でいちばんの長者になった。物語はあっけなく終わった。