はつ恋

今日こそはコウコに思いを打ち明けよう、と決心した日の朝、教室に彼女の姿はなかった。
予鈴が鳴り、担任の鬼瓦がドアを開けた。
「今日はみんなに重大なお知らせがある。もう知っている者もいるだろうが、四条コウコ君がこのたびお父さんの仕事の都合で」そこで鬼瓦は言葉を切った。
誰かが静かに教室に入ってくる。
コウコだ。
うつむいているので顔は見えないが、肩が震えている。なんということだ。よりによってこんな日に。
「……えっと、その、四条コウコ君だが、お父さんの仕事の都合で学校を辞めて、肉餃子になることになったので、お別れの挨拶をしたいそうだ」
コウコが頭を上げた。目が潤んでいる。クラスのアイドル、いや、学年きっての美少女は半泣きでもやっぱりきれいだった。
「わ、わたくし、四条コウコは、浅ましくて下品な肉餃子です。こんな、わたしですが、どうか御賞味ください」
そういうと、コウコはまたうつむいて、そのまま教室を出て行った。
その日の給食のおかずは肉餃子だった。ぼくは泣きながら、ぷりぷりとした肉餃子を箸で摘み、口へと運んだ。
ああ、コウコ。こんな惨めな姿になっても君はやっぱり魅力的だよ。
噛みしめれば、じゅわーと肉汁が口いっぱいに広がり、独特の芳香が鼻を楽しませた。
皆さん、これがぼくの、悲しいはつ恋の顛末です。