15秒の悪夢

ふだんテレビをほとんど見ない生活を送っていると、たまたまテレビの前を通りかかったときにみた映像が強烈に印象づけられることがある。
今日、まさにそのような体験をした。
コーヒーを飲もうと思って食堂に行くと、テレビがつけっぱなしになっていてコマーシャルが流れていた。なんとなく目を向けると、画面に若いあんちゃんの写真が出て「カレシ」とテロップが表示された。そして、テロップと同じく「カレシ」と言う抑揚のない女性の声。
なに、これ?
次の瞬間、写真は若いねえちゃんのものに変わり、「カレシの元カノ」とテロップが出た。また画面が変わり、今度は先のあんちゃんとは別のあんちゃんの写真に重ねて「カレシの元カノの元カレ」、さらに「カレシの元カノの元カレの元カノ」、さらに……。
テロップの文字はどんどん小さくなり、ナレーションはやんでしまった。そして、人を何とも不安にする音楽が流れてくる。
なんなんだ、これは一体?
そして、ラスト。ACロゴマークとともにメッセージが表示されて、このコマーシャルは終わった。
ひゃ〜、助けて〜。
思わずコーヒーをこぼしそうになった。危ないところだった。
ACの広告の怖さについてTKO氏が次のように述べている。


ACの広告には、とにかく人間の根元的な恐怖心に訴えかける何かがあると思う。例えば、海岸に佇む人間を形取った泥人形。それが腰から音もなくゆっくりと崩れ落ちていく姿。一瞬だけ水しぶきが大きく撥ねる。けれども、その水音はこちらまでは届かない。すると、やがて静かに「ストップ、温暖化」のことばが現れる。それも、黒バックに白抜きの文字で。そして最後、ふとした油断を許さぬ如く絶妙のタイミングで挿入される「え〜し〜」の声で、幕。これは怖い。ナゼ怖いのか、どこが恐ろしいのか、自分でもよく判らないけど怖い。誰か助けて。
今回のコマーシャルでは「え〜し〜」の声はなかったが、それでも怖かった。というか、頭の奥底からその声が聞こえてきたような気がした。
で、最後のメッセージはなんだったかというと、正確な文言は忘れたが、「エイズは他人事だと思っていませんか」という内容だった。カレとカノジョの連鎖はエイズ検査を推奨するためのものだったのだ。
なるほど。
だが、オチがついたところで恐怖が解消するわけではなく、かえってそれが高まっていくのはなぜだろう。このわずか15秒の映像には、単なる「エイズの危険を訴えるための脅かし」以上の何かが含まれている。うまく言葉にはできないのだが、それはたとえば人と人の繋がりに含まれる不安なのかもしれないし、近く親しく馴染みのある事柄の系列を辿っていくと、その中に何か異形のものが紛れ込んでいるかもしれないという不安なのかもしれない。
ところで、いま日本大学芸術学部芸術資料館で「公共広告機構CMの変遷」という企画展が開催されているらしい。期間は7/28までで、日曜祝日は休館、土曜は正午までという条件は厳しく、地方人が見に行くのは困難だが……。