シリツしてください

ランドル・ギャレットの偉い人の『犬はどこだ』評*1を読むと、『ブラックジャック』の第1話のサブタイトルの元ネタが『ねじ式』だと書かれていた。
えっ?
調べてみると、同じ指摘をしている人がほかにもいる*2のでTKO氏の独創というわけでもないのだが、それにしてもこれは意外だった。『ねじ式』も『ブラックジャック』も日本マンガ史に残る名作だが、内容的にも系譜上も全く異なるので、今の読者が両作品の関連に気づくことは滅多にないだろう。さすがはTKO氏、オタク第1世代だ。*3古典への造詣の深さには感服する。
ただし、ひとつだけ腑に落ちない点がある。それは、最後のパラグラフだ。


手塚治虫の『ブラックジャック』は、「医者はどこだ!」という力強い産声を上げ、そのままヒューマン・サスペンスの傑作の地位に君臨した。そしていま、米澤穂信は「犬はどこだ」を上梓してこれを第1回とした、新感覚のサスペンス・シリーズに挑戦しようとしている。願わくば、この作品が手塚治虫の傑作の様に新境地への架け橋となり、新たな読者層を開拓する呼び水となって、更には後世に長く語り継がれる金字塔にならん事を。ハードボイルドに食わず嫌いを示している若い読者を強引にでも本に惹き付けて放さない、そんな魅力的な作品になっていく事を、私は強く期待している。
『犬はどこだ』は古典的なハードボイルドというより、むしろ私立探偵小説またはネオ・ハードボイルドの系譜に属する*4……とまあそういう細かい話はぬきにして。
ブラックジャック』が第1話からそのままヒューマン・サスペンスの傑作の地位に君臨したというのは事実ではない。その証拠に、初期の単行本は「ヒューマンコミック」ではなく「恐怖コミック」だった。*5
ところで、『ねじ式』の例の「メメクラゲ」、実は印刷屋の誤植ではなかったらしい。へぇ。

*1:7/30付だが、あとで張り直すのが面倒なので直リンクは省略する。

*2:ただし、確証はないようだ。

*3:と書いたが、リアルタイムで連載していた『ブラックジャック』はともかく、『ねじ式』が第1世代にとっての必読書だったかどうかは知らない。

*4:この点については、朱鷺野耕一氏の『犬はどこだ』評を参照のこと。

*5:2ちゃんねる漫画用語辞典 ハ行の【ブラック・ジャック】の項ほか参照。