三段論法の暗黙の前提


日韓併合後のインフラ投資が彼の地の「近代化」に貢献したという話は私もよく聞くし、それ自体を否定するつもりはないが、この命題を「従って日本は韓国に“良いこと”をした」という価値判断的な結論に持っていくためには、この価値判断をもたらすための暗黙の大前提として「この種の(西欧型)近代化は普遍的に“良いこと”である」という命題が必要となる。「(隠れた大前提→)小前提→結論」という三段論法形式になっているのだ。
で、この大前提の前景化が「そんなの当たり前じゃん」と軽くスルーされてしまうと、なかなか話がつながらなくなってしまうのだろう。

ところで、小前提と結論からさかのぼって大前提を推論する方法の、論理学的な定式化みたいなものはあるのだろうか。体系的な勉強をしてこなかった素人の弱みで、こういうのがいまいちよく判らない。
整理してみよう。
大前提:この種の(西欧型)近代化は普遍的に“良いこと”である
小前提:日韓併合後のインフラ投資が彼の地の「近代化」に貢献した
結論:日本は韓国に“良いこと”をした
この推論にはもうひとつ隠れた前提があるように思われる。「ある事柄が“良いこと”であるなら、それに貢献することも“良いこと”である」という前提がないと、大前提と小前提は繋がらない。
ところで、この大前提はもともと主張されていることではなくて、小前提と結論から推測されたことなのだから、「第三の前提」を想定してまで強いてこの大前提を採用する必要はないような気もする。
いや、それ以前に、強いて三段論法の図式にこだわる必要はないのだけれど。
ちなみに、現代の記号論理学においては伝統的論理学は乗り越えられている*1ので、三段論法を用いて議論するのは馬鹿げているという人もいるが、それは違うと思う。議論の筋道を見通しよくしようとするとき、記号論理学が常に最適のものとは限らないからだ。

*1:この見解には同意する。