読め! 読め! 読め! いいから(略)

玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)

玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)

凄い! 凄い! 凄い! 面白い!
こんなに面白い小説を読んだのは10年ぶりだ。いや、それはちょっと大げさか。ごく控えめに5日ぶり*1と言い直しておこう。一読巻置く能わず。この言葉がぴったりだ。
オビには抱腹絶倒のシチュエーション・コメディー!と書かれているが、まさにその通りであり、またそれ以上のものでもある。手に汗握るタイムリミット・サスペンスでもあり、ピカレスク・ロマンの味わいもある。私立探偵は出てこないが私立探偵小説ふうでもある。
傑作だ。
レーベルがトクマ・ノベルズEdgeということで、本筋と全然まったく何の関係もない「メイド喫茶」などという言葉もちらほら出てくるが、内容はライトノベルではなく、たとえばミステリ・フロンティアで出ていたとしても全く遜色がなかっただろう。*2
(以下少し内容に触れます)
主人公の大道寺志郎はメイド喫茶の店長だったが、店員に売り上げを持ち逃げされて店は潰れ、借金を抱える身の上。危ない債権回収屋に4日後の正午までに500万円を現金で支払わないと両手足の指をすべて切ると脅かされる。各章の見出しは「六月一日」「六月二日」「六月三日」「六月四日」「六月五日」となっており、この小説の構成を高らかに宣言している。
期限が決まっていて、主人公の為すべき事も明確に示されているのだから、わかりやすい単純なお話ではある。だが、主たるミッションに対してサブミッションが与えられ、さらにサブミッション遂行のために複数のサブサブミッションが……というふうに事態はどんどん錯綜していく。このあたりの構成はRPGに近いが、6つの課題に同時進行で立ち向かうという例は寡聞にして知らない。
この小説の最初のほうの構成をまとめると次のようになる。

Mission1
6月5日正午までに500万円を工面せよ
Mission2
500万円を入手するために、相続したボロアパート玉響荘を売却せよ
Mission3
玉響荘を売却するために、6人の住人全員に退去届を書かせよ
Mission4-1
101号室の村井に退去届を書かせるために、村井の持ち家で生じた幽霊騒ぎを解決せよ
Mission4-2
102号室の矢坂に退去届を書かせるめに、矢坂の居所を突き止めよ
Mission4-3〜6
(略)

この、まるで「わらしべ長者」の逆をいくようなストーリーは、先の展開がなかなか読めない。課題を順番に解決していくなら、わざわざ同時進行にせずに連作短篇にすればいいのだから、きっとそれぞれの課題が相互に関連しあっているのだろう、とまでは予想できるのだが、冒頭付近でさりげなく触れられたエピソードが課題と意外な繋がりを持っていて、「あ、なるほど、そう来たか」と思わされることが何度もあった。伏線の張り方のうまさに、ミステリ作家としての並々ならぬセンスを感じた。*3
福田栄一という作家について予備知識が全くないので、いったいどういう経歴の持ち主で、過去にどんな作品を発表しているのかが気になった。そこで、検索して調べてみると、こんなページが見つかった。別人だった。
作者のサイトAnybody Seen My Site?を見ると、2003年に『A HAPPY LUCKY MAN』でデビューして、『玉響荘のユーウツ』は2冊目の著作になるようだ。前作も同系統のようなので、今度探してみることにしよう。ああ、また読みたい本が一冊増えた。
また、ウェブ上でも『One Fine Day』という小説が公開されている。これも読んでみよう。
ああ、今日は勢いに任せて煽りすぎたかも。
でも、まあいいや。

*1:ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)』を読んだのが先週の土曜日だったので。ただし、面白さの質は全然違う。

*2:ミステリ・フロンティアラノベレーベルじゃなかったっけ?」などと言わないように。

*3:ただし、この小説は謎解きを主眼としたものではないので、ミステリを期待して読んではいけない。