定義の押し付け

現代社会は規範の押し付けを嫌う。ひとはみな他人に迷惑をかけない限り、自分の好きなように行動していいのであって、それを他人からとやかく言われる筋合いはない、という考え方が浸透している。
この考え方の原理的な妥当性については問わないことにするが、いつでもどこでもどんな場合でも適用可能な普遍的なものの見方でないことは明らかだ。たとえば、あからさまに科学的知識に反する主張を行う人については、「あなたの言っていることは間違っている」と指摘するのが筋だろうし、それを「私が何を言おうが私の自由だ。誰にも迷惑をかけていないのだから放っておいてくれ」などと切り返されると鼻白む。
では、言葉の意味についてはどうか? ある言葉とそれがもつとされている意味との対応関係は人間の言語的活動から独立ではなく、唯一無二の客観的真理があるわけではない。だが、どの言葉をどのように使うかは個々人の趣味の問題だとも言い切れないだろう。