アイはさだめ、さだめは死

今月の富士見ミステリー文庫は、5th Anniversaryフェアの共通オビがついている。キャッチフレーズは「アイしてる!!」だ。それは知っていたのだが、今月の新刊だけでなく、既刊本にも同じオビがついているのを見落としていて、今日初めてそれに気づいた。
もちろん、既刊本のすべてにオビがついているわけではない。いちいち奥付を確認しなかったので、今月増刷したもの以外にも共通オビがついている本があるのかどうかは知らないが、いずれにせよ今月フェアにあわせて出荷した分のみに限られているはずだ。ということは、オビのついている本は売れ筋または出版社が特に売りたがっている本ということになる。
それはさておき。
共通オビをつけて並べられた本の中に、一冊もの凄く内容とのギャップが激しい本があった。それは『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)』だ。
いったい誰が誰を愛しているというのだろうか? 思い浮かぶのは、例の父親が娘に向けた異常な愛だけだが、それをオビででかでかと書き立てて肯定してしまっていいのものか。
だが、ここで立ち止まってはいけない。さらにダブルミーニングの可能性も検討してみた。キャッチフレーズに「愛」ではなくカタカナの「アイ」が使われているのには二重の意味があるという仮説だ。もちろん、富士見ミステリー文庫の大部分の作品については、そのまま素直に「愛してる」と読んでいいのだが、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に限っては別の意味が籠められているのではないだろうか。
考えられるのは、たとえば「哀」だ。「哀してる」というのは日本語としてかなり無理があるが、意味は通じるだろう。また「遭いしてる」とも考えられる。誰かが誰かに遭って、何かをしているという意味にとれる。何をしているのかといえば、そりゃもちろん解体でしょう。
まだほかに考えられないか? さすがに「藍してる」とか「挨してる」では意味が通らないが、「Iしてる」はありそうだ。ちょっと苦しいが、「私」がひとりで孤独に耐えているという意味を読み取ることも人によってはできなくないかもしれない。もっとも「アイしてる!!」と書かれたオビを見て即座にこのような無茶苦茶無理のある解釈が思い浮かんだ人はちょっとどうかしているので、誰か信頼できる人に相談してみたほうがいいかもしれない。
さて、ここに一つ問題がある。同じオビの下に「L・O・V・E!」とも書かれていることだ。「LOVE」は「愛」だから、上の「アイ」も「愛」としか読めないんじゃないか?
だが、心配はいらない。最初から心配していない人はさらに安心できる。「LOVE」には別の意味もあるのだ。テニスや卓球の点数の数え方を知っている人には言うまでもないが、「LOVE」はゼロを表す。ゼロ、それは完全なる空虚。そう、ここにもダブルミーニングが仕込まれていたのだ。
ああ、恐るべき富士見ミステリー文庫