ゴシックロマンス

人気シリーズ「GOSICK」の短篇集第2弾、通算では7冊目となる今回は、ひとなつの間にヴィクトリカと久城一弥が体験した比較的小粒な事件*1を扱っている。ひとつひとつの事件そのものはさほど意表をつくものではないが、ミステリ読みなら122ページから123ページにかけてちょっとニヤリとする*2かもしれない。
だが、強いてミステリの文脈に引きつけて読む必要もないだろう。このシリーズのポイントは何といってもヴィクトリカと一弥の微妙な関係にある。ただの友達というには密接過ぎるし、かといって恋人同士では決してない。では「友達以上恋人未満」ということなのかといえば、どうもそうでもなさそうだ。ふたりの関係は、友達恋人を結ぶ直線上を動く点のようでいて、その軌跡を辿ってみれば少し直線から外れているようにも見える。軌跡を延長すれば、その先にあるのはもしかしたら戦友かもしれない。
そんなことを思いつつネットを巡回していると、REVの日記 @はてな - ゴシックシリーズの短編集第二弾の感想の随想が印象に残った。や、こりゃ面白い。
閑話休題
先ほどヴィクトリカと一弥の関係がポイントだと言ったばかりだが、実を言えばこの本の中でいちばん興味深かったのは第六話「初恋」だった。タイトルがいい。もちろん、同じタイトルの小説はいくらでもあるのだが、この作品は初恋の話では全然ない。では的はずれなタイトルなのかといえばさにあらず、これほどぴったりとしたタイトルは他に考えられないと思われるほどだ。さらに、このタイトルは作品をして一種のリドルストーリーたらしめている……というのはちょっと妄想がかった考えかもしれないけれど。
ついでに妄想をさらに進めてみる。小説の作者と作中人物を同一視するのは危険なのだが、第三話「夏から遠ざかる列車」に登場するミス・ラフィットの性格や言動が「GOSICK」などのあとがきや作者の日記に書かれているそれ*3とそっくりだと思った。どこが似ているのかを説明するのはいろんな意味で困難だ。各自読み比べて確かめられたし。なお「全然似てないよ〜」という抗議は受けつけないのであらかじめ了知被致度候。

*1:ただし、巻末の書き下ろし「初恋」を除く。これは一弥とは無関係で、ヴィクトリカも直接は登場しない。

*2:具体的な作品名を挙げるのは控えておくが、122ページのトリックはチェスタトン、123ページの手がかりはドイルにそれぞれ由来するもので、古典ミステリの2人の巨匠を2ページ続けて引っぱり出してきたところに作者の遊び心を感じる。

*3:むろん、小説家が不特定多数の人々に向けて書いている文章のことだから、ある程度の誇張は当然含まれているだろう。よって、そこから想像する桜庭一樹の人物像がどの程度本人と合致するかは不明だ。