面白いマンガを読むと八つ当たりしたくなる

龍宮殿(1) (IKKI COMIX)

龍宮殿(1) (IKKI COMIX)

龍宮殿 2集 (IKKI COMICS)

龍宮殿 2集 (IKKI COMICS)

龍宮殿 3 (IKKI COMICS)

龍宮殿 3 (IKKI COMICS)

知人の鶴屋氏*1の薦めで買ったマンガ。非常に面白かった。
有難う、鶴屋さん……と言いかけたのだが、3巻*2の奥付を見ると、2005年5月に初刷が出ている。
おのれ鶴屋め、1年以上ずっと隠しておった*3のかっ! この間に「何かお薦めのマンガは?」と訊いたら、『それがし乞食にあらず (平田弘史傑作選 (昭和四五年~四六年))』とか『口笛小曲集 (ビームコミックス)』とかを薦めよって! 貴様……たばかったな!*4 かくなる上は、貴様が的良みらんの名前をずっと「てきら」だと思っていたことを皆の者にばらしてやるぞ。どうだ、恥ずかしいだろう。ははは、積年の恨み*5思い知ったか!!!11
……と八つ当たりを終えたところで、内容について感想を述べる。
タイトルからもわかるとおり、これは民話の「浦島太郎」を下敷きにしたマンガだが、それをどのように発展させ、どんなジャンルに組み込んでいるのかまでは当然のことながらタイトルからはわからない。わからずに読むほうが読者にとっては幸せだ。何がどうなるのかわからないのが面白さの一つなので、このマンガについて全く予備知識のない人は、予備知識のないままに1巻の最初のページを開いて貰いたい。冒頭のウサギのダンスからあれよあれよという間に想像を絶する世界へと引き込まれていくこと請け合いだ。
『龍宮殿』は「月刊IKKI*6に連載された作品なので、おそらく雑誌掲載時には毎回扉があって、次回へのヒキ、前回のヒキを受けたシーンなどがあったものと思われる。だが、単行本化にあわせてそれらの要素はばっさりと切られて、途切れなく続く一本の物語となっている。これは、たとえば『ヨイコノミライ』の4巻*7の単行本描き下ろし部分でも雑誌連載のペースで章立てをして毎回扉を入れているのと対照的だ。
単行本1冊の分量はその物理的厚みを超えることが絶対にあり得ないので、どんなマンガも必ず終わることは間違いない。だが、途中の区切りがないということは、当座のエピソードが一段落して次へと進むという節目がないことでもあり、果てしなく続く終わりなき物語であるかのような錯覚を読者に抱かせる効果をもつ。1回あたりの放送時間がきっちり決まっていて、しかもAパートとBパートの間にはCMとアイキャッチが入るテレビアニメを見慣れた人が、いきなり映画館の暗闇に放り込まれて切れ目のない長篇アニメを鑑賞したときのような感覚に近いだろう。そして、この「終わりなき物語」がやはりそれでも終わりを迎えるときの感慨は……いや、これ以上はさすがに書けない。
今、1巻から3巻までの奥付を見ると、先月買った本なのに全部初刷だった。どうもあまり売れているマンガではなさそうだ*8。早く買わないとなくなるかもしれないし、古本屋にもそう多くは出回らないと思われるので、もし書店で見かけたら是非入手されたい。

*1:鶴屋氏については、このあたりを参照のこと。

*2:巻数の単位は「集」だが、気にしないことにする。

*3:註:別に隠していません。

*4:註:どちらも非常に面白いマンガです。

*5:註:「積年の恨み」とは「長年の間に積もり重なった恨み」という意味なので、これは誤用です。

*6:最初のほうは隔月刊の「スピリッツ増刊IKKI」だった。

*7:これも正確にいえば「4集」だ。

*8:まあ、鶴屋氏ご推薦のマンガはどれもこれも売れ筋から外れているので、それ自体は特に驚くべきことでもない。