北緯五十五度、西経三十五度

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

表題作は今さら多言を費やすまでもない古典的名作だ。粗筋を紹介するのも気がひけるので、そのかわりに作中の印象深い一節を引用してみよう。

海に漂う町では、時間がとまっています。少女はいつまでも十二歳のままです。いくら鏡のまえで胸を反り返らせてみても、大きくなりはしないのです。
さあ、これで十分だろう。あとは自分で読んでもらいたい。詩情と奇想が綯い交ぜになった不思議な世界が目の前にひろがることだろう。
なお、表題作以外の収録作品にはあまり明確なオチがなく、雰囲気だけで満足できる人でないと少々退屈かもしれない。個人的な好みでいえば「セーヌ河の名なし娘」と「競馬の続き」がお薦め。前者は乙一の某作品の先取りともいえる。後者は寝取られ話だ。