ウェブ上の「友達」って? -Twitterから感じる微妙な距離感-

英語の「Friends」を直訳すれば「友達(複数)」だが、Twitterでは「自分のホーム画面に発言を表示できるように登録した相手方」という程度の意味になる。逆に、自分の発言をホーム画面に表示できるように登録した相手方のことを「Followers」と称する。もし、「Friends」が自分にとっての友達を意味するのだとすれば、相手方にとっても自分は友達なのだから、このような用語の使い分けは起こらないはずだ。よって、Twitterの「Friends」は友達という意味ではないということになる……などと理屈立てて説明するまでもなく、こんなことはTwitterに触れてその仕組みを理解した人にとっては当たり前のことだ。
だが、「Friends」が本当に友達かどうかは関係ない、と頭ではわかっていても、対人関係に不安のある身では、なかなかそのように割り切ることができない。他人を勝手に「友達」認定してしまっていいものだろうかと気になるのだ。この感覚は、通常のウェブページにおける無断リンク、特にフレーム内に他人のページを取り込む形のリンクに近いかもしれない。で、何となく登録するのにためらいがあった。単に他人の発言を閲覧したいだけなら、それぞれの人のホーム画面にアクセスすればいいのに、多少アクセスの手間が省けるにせよ、自分のページ内に取り込むという形で他人と関わりを持つことに抵抗感があったのだ。
そのような抵抗感をもつ人間にとって、Twitterは明らかに向いていない。
で、しばらくもたもたと「0 Friends」のまま適当に英文をコピペしたり改変したりして過ごしているうちに、Twitter / aNmiNreNtaNの「Followers」が10人になった*1。こうなると、勝手にやめるのも申し訳ないような気がしてきたのと、あちらがこちらを登録しているのにこちらがあちらを登録しないのは失礼に当たるのではないか、と思うようになってきた。この感覚も通常のウェブページにたとえるなら、相互リンクしなければならないという強迫観念に近いかもしれない。Twitterはゆるいコミュニケーションの手段だと聞いていたが、それは「SNSに比べるとゆるい」という意味だったのだろう。ふだん、この日記から勝手気ままに無断リンクしたり、この日記へのリンクを無視したりしていても、Twitterでは同様に振る舞うことができなくなってきた。
そこで、昨日、それまでに書いたどうでもいい発言を一旦全部消去して、「Followers」全員を「Friends」に登録した。いよいよ本格的にコミュニケーション開始だ。
だが、やはりネックは「Friends」という用語だ。さっき述べたように、これは「友達」という意味ではないとわかっていても、どうしても原義を引きずって考えてしまう。つまり、「『友達』相手に一体何を話せばいいのか?」という疑問に突き当たってしまったのだ。
考えてみればウェブ日記というのは気楽な空間だ。実社会では、いきなり公衆の面前で「医介補!」とか「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ!」とか叫んだりしたら、ちょっと頭の中がかわいそうな人に思われることだろう。TPOをわきまえない発言は全く許されない。だが、自分のウェブ日記なら、そんな気遣いは不要だ。他人を貶したり、著作物を転載したり、オフレコ情報を漏らしたりすると問題になるので、文字通りの「なんでもあり」からはほど遠いが、とはいえ実社会での会話に比べれば自由度は格段に高い。基本的には好きなことを好きなように書けばいい。日常会話での「文脈」に相当するものは検索エンジンキーワードリンクなどである程度代替されているから、興味のある人だけ、わかる人だけを対象にした話ができる。
そんな気楽な空間になじんでしまうと、「友達」との接し方がわからなくなる。いや、かつてはわかっていた事がわからなくなったのではなくて、もとから何も知らなかったのだ。いずれにせよ、、「友達」に向かって何を言えばいいのかがわからない。
Twitterで自分のホーム画面にアクセスすると、「友達」の発言が並んでいる。なるほど、それらは確かに「ゆるい」つながりだ。はっきりとした応答が繰り返されているわけではなく、とりとめもない独り言がただ発言順に配置されているだけに過ぎない。しかし、「ゆるい」とはいえそこには単なる無秩序ではない何かがあるようにも見える。それは、ある種の錯視図形のように、本当は存在しない図形を「見ている」だけなのかもしれないが。
「友達」はみんな楽しそうだ。
あの環に入れればきっと楽しいだろう。
でも、しかし。
今、楽しそうに言葉を紡いでいる「友達」の環に自分が入って、それでもなおかつ環を保ち続けているという状況が、どうしてもイメージできない。困ったことに。
というわけで。
ここには大きく「Haven’t updated yet!」と書かれたままになっている。
さてどうしたものか。
さてさてどうしたものか。
さてさてさてどうしたものか。
さてさてさてさて。真のネックは「Friends」という用語だろうか? 「違うでしょ」と囁く声がどこからともなく聞こえてくる。
うん、その通り。問題は全然別のところにある。

*1:今はもう1人増えて11人になっている。