失礼、お目汚しの駄文を

“文学少女”と秘密の書棚を書いてから一晩経って多少冷静になった。別に評価を下方修正するつもりはないが、『身内に不幸がありまして』読了直後に書いた感想文だけに必要以上に煽っているところもあり、やや説明不足のところもある。そこで、簡単に補足しておこう。

  • 「最後の一撃」ものは、いちばん最後の意外な結末に気づくかどうかで大きく感銘の度合いが異なることになる。注意深く賢明な人なら、作中の伏線を適切に拾い上げて、結末を「ひらめく」ことができるかもしれないので、また違った感想を抱くことになるだろう。
  • もう一つ、『身内に不幸がありまして』に関していえば、途中までの展開が「読める」かどうかも、感想に影響を与える大きな要因になるのではないかと思う。全くノーガードで読み進めた人よりも、ある程度真相をうすうす把握していた人のほうが衝撃が大きいのではないだろうか。
  • 時代背景*1を考えると、現実にはどう考えてもありそうもない状況が設定されている。語り口でカバーできていると評価すべきか、メルヘン色をもう少し強めるべきだったと評価すべきか、少々悩ましい。
  • 先の感想文で言及したのとは逆に、たぶん意図的に真似たつもりはないだろうが、結果としてある作家の作品とかなり似た雰囲気になっている。隠すこともないので書いてしまうが、谷川流によく似ている。どこがどう似ているのかは、各自確かめていただきたい。
  • 米澤穂信の過去の作品とはあまり似ていない、というのは少し言い過ぎだった。詳しく書くとネタばらしになるので書けないが、動機*2の背後の思想は、米澤作品一般に共通している。
  • 個人的な好みでいえば、推理なしで真相のみが明かされる『身内に不幸がありまして』よりも、推理の過程が語られる『失礼、お見苦しいところを』のほう*3が好きだ。
  • 木々高太郎の例の作品*4を再読してみたい。語られていないエピソードが暗示されているように思うので。

*1:作中では明示されていないが、最終ページに出てくるある道具からだいたい察しがつく。また、それ以前にも、ある小説の版型からある程度絞り込める。

*2:殺人動機ではなく、それに付随する別の動機。

*3:このように書くと『失礼、お見苦しいところを』はがちがちのパズラーだと思われるかもしれないが、読めばわかるとおりそんな話ではない。ジャンル分けは難しいが、無理矢理レッテルを貼るなら「超探偵小説」ということになるだろうか。論理が奇妙にねじくれた悪夢のような作品だ。

*4:作中で言及されているが、ここで作品名を挙げるのは控えておく。