魔法の指をもつ作家

ここで書いたとおり、今日、ペッパーランチに行ってきた。本当は心斎橋店に行きたかったのだが、もう閉店したそうなので、やむを得ず別の店にした。真っ昼間だったので、食べている最中にシャッターをおろされることもなく、無事帰ってきた。
ペッパーランチで食事をとったのは今回が初めてだ。はじめての店に一人で入るのは何となく不安なので、最初は知人の某氏を誘ったのだが、「もっとあっさりしたものが食べたい」とただをこねられたので、某氏お薦めの蕎麦屋に行くことにした。だがしかし、自分で薦めておきながら、某氏は店を間違えて、お薦めの店の斜め向かいにある別の蕎麦屋に入ってしまった。何ということもない普通の蕎麦屋だったか、某氏は普通の人ではないので、いろいろと愉快な話が聞けてよかった。
その後、某氏とは別の某氏を誘って、今度は本当にペッパーランチに行くことにした。その、某氏とは別の某氏はペッパーランチには何度も行ったことがあるということだったので、安心した。「普通の店ですよ」と、某氏とは別の某氏は言った。まさにその通りだった。これまでに行ったことのあるステーキ店と違っていたのは、ステーキ肉が予め食べやすいサイズに切られてあったことと、ナイフとフォークのかわりに箸で出てきたことくらいだろうか。ただし、他店の比較ができるほど、ステーキ店のことをよく知っているわけではない。
あまりにも普通の店だったのでがっかりしたが、某氏とは別の某氏から普通では聞けない愉快な話を聞けたのはよかった。とはいえ、某氏とは別の某氏自身が普通の人ではないということではない。
某氏から聞いたのか、某氏とは別の某氏から聞いたのか、今となっては定かではないが、一つだけ愉快な話を紹介しよう。
とある人気作家*1が、ある時、自著一冊あたりの印税を文字数で割る計算をした。すると、およそ十円になった。そこで、その作家は「俺の指は魔法の指だ! パソコンのキーを一回叩くたびに、何もないところから十円玉がチャリン、チャリンと現れて、積み重なっていくのだっ!」と豪語しているらしい。
そのエピソードを聞いたときには、「なるほど。キータッチ一回で十円か……」と素直に感心したのだが、あとでよくよく考えてみると、どうもおかしい。印税の字数割が十円でも、一字あたり何回キーを何回叩いているかによって、魔法の指の力は違ってくるのではないだろうか。かな入力かローマ字入力か、それとも懐かしの親指シフトか。また、漢字が多いのか、それともひらがなが多いのか。当然、推敲や手直しのロスもあるだろう。仮に一字あたり十回キーを叩いている計算になるなら、魔法の指から生み出される硬貨は十円玉ではなく一円玉だということになるだろう。あるいは、五回叩くたびに五円玉が出てくるという光景をイメージしてみてもいい。十円玉が次から次へと現れるのに比べると、何となく迫力が足りないようにも思える。
いや、一円玉にしても五円玉にしても、無から有を出現させる魔法の力をもっているのは素晴らしいことだ。今、この文章もパソコンで作成しているのだが、何回キーを叩いても一円玉どころか二銭銅貨すら出現する気配がないのだから。ああ、魔法の指がほしい……。

*1:この話は作家名を挙げたほうがもっと愉快なのだが、本当に本人がそう言ったと証明することができないので、ぼかしておかなければならないのが残念だ。