お金さえあれば何でも買えるというわけではない

「お金さえあれば何でも買える」というのは極論であり、反例を挙げることは簡単だ。実際、多くの人が反証している。ただ、これまでの反駁のほとんどは「お金では買えないものがある」という主張に基づくものであり、その点で不満が残る。というのは、「お金さえあれば何でも買える」という主張を覆すには、より瑣末な例を挙げるだけで十分であり、「お金では買えないもの」などという特殊なものをことさら持ち出す必要は全くないからだ。
では、「お金さえあれば何でも買える」という主張に対抗する瑣末な例を挙げよう。なんでもいいのだが……うん、ゆべしにしよう。
一箱525円(税込)のゆべしを買うために、500円玉1枚と10円玉2枚、そして5円玉1枚ないし1円玉5枚を手に握りしめて和菓子屋に行ったとしよう。「お金さえあれば何でも買える」というのだから、お金以外には何もいらないはずだ。よって、全裸かつ裸足だ。果たして店の人はゆべしを売ってくれるだろうか? たぶん、売ってくれないだろう。いや、売ってくれるかどうかという問題以前に、店にたどり着くことすら困難だと思われる。
もちろん、衣服も靴もお金を出せば買える。しかし、いずれも、お金さえあれば買えるわけではない。一般に、お金を出してものを買うためには、お金以外の条件が整っていることが必要だ。条件が多いか少ないかの違いはあっても、全く無条件で買えるものがこの世にあるのかどうかは疑わしい。仮にあったとしても、「お金さえあれば何でも買える」という主張を裏付けることにならないのは言うまでもない。