海野十三は科学恐怖の夢を見るか?

十八時の音楽浴―漆黒のアネット (ガガガ文庫)

十八時の音楽浴―漆黒のアネット (ガガガ文庫)

どんな読者層をターゲットにしているのか今ひとつ不明なガガガ文庫跳訳」シリーズ第1弾。怖いものみたさで恐る恐る読んでみたが、意外とまともだった。ただし、この「まとも」というのは海野十三を基準とした場合にまともだということだ。海野十三の小説は怪作奇作そろいだから、それに負けじと張り切ったと思しき本書も相当なブツに仕上がっている。残念ながら下敷きとなった作品のひとつ「火葬国風景」は読んでいないし、「十八時の音楽浴」のほうも随分昔に一度読んだきりなので、原作をどうアレンジしたのか比較検討することはできないのだが、そういった比較は海野十三全集を読み込んでいる猛者がやってくれることだろう。誰とは言わないが。
原作のことは頭から追い払ってみると、終盤が多少ぐだぐだになってはいるものの、全体としては非常に面白く読めた。最後のぐだぐだがもっとぐずぐずのずだずだのはらほれひれはれだったほうが個人的な好みに合ったのだが、あまり跳びすぎた訳が読者を置いてけぼりにしてしまうと後が続かなくなるから、これはこれでよかったのだろう。
ゆずはらとしゆきの小説を読んだのはこれが初めてだが、他の作品も読んでみようかという気になった。