「エヴァ」を知らずに「ヱヴァ」を観た

実は、「新世紀エヴァンゲリオン」は全く観たことがない。
今から10年とちょっと前にブームが巻き起こったとき、猫も杓子も「エヴァ」「エヴァ」と騒ぐものだから、何となくむっとして意地でも観てやるものかと思ってテレビ版も映画版も完全スルーした。もちろんマンガ版も読んでいない。
そのせいで、オタク文化の基本潮流のひとつを全く掴み損ねたまま今に至っている。別にオタク評論家になりたいわけではないので、文脈を押さえていようがいまいがどうということはないのだが、としをとって性格がまるくなってきたので、かつてのようにムキになって拒絶することもないと考えを改めた。
で、今日たまたま夜に時間があいたので、映画館に足を運んでみた。自由定員制だったので、開場後すぐに席を確保して、座席に読みかけの『赤石沢教室の実験 (Style‐F)』を置いてパンフレットを買いにカウンターへ行くと品切れ中。仕方なく席に戻ると、ひとつ前の席にも本が置いてあった。見れば『片耳うさぎ』だった。
上映数分前にはほぼ座席が埋まった。いったい、この中のどれくらいの人が「エヴァ」を知らずに観に来ているのだろうか。そんな疑問がふと浮かんだが確かめる術もない。そうこうするうちに上映開始。
物語は非常にテンポよく進み、まるでダイジェスト版のようだった。「エヴァ」とどの程度似ていてどこが違うのかはさっぱりわからないが、どことなく既視感がある。『最終兵器彼女』とか『イリヤの空、UFOの夏』などを連想した。
ああ、これがセカイ系なのか……。
かつて一世を風靡した太明朝に懐かしさを覚えつつ、何とも名状しがたい感慨に囚われたが、「名状しがたい」ので言葉で言い表すことはできない。
映画が終わって、皆、無言のままで映画館を出た。あれほど大勢の人々が何も喋らずに黙々と帰路につく情景は、すこしふしぎで現実離れしているように思われた。

追記

Something Orange -  まだ見ていないお前らのために『ヱヴァ』を解説するよ。を見ると、まるで別の映画について語っているかのようだ。いや、つまらなかったと言いたいわけではない。確かに面白い映画だったのだが、およそ「熱狂」という言葉の対極にあるような雰囲気の映画だったという印象だったので。「エヴァ」を知っているかどうかでこれほど印象に違いが出るものなのか。それとも単なる個人差か。でも、映画が終わったとき誰も拍手していなかったので、個人差だけということはないはずだけど。