杉井光の11月の新刊が『神様のメモ帳』ではないことを知って愕然としつつ、電撃hpに掲載された短篇の感想文を書いてみる

電撃hp 49

電撃hp 49

神様のメモ帳』シリーズは電撃文庫から2巻まで出ているほか、短篇「神様のメモ帳 はなまるスープ顛末」*1がある。この短篇は、重いテーマを扱った本篇の合間のコミカルな事件を描いたもので、軽妙で楽しい作品だったが、今回、「DENGEKI MYSTERY&HORROR 2007」の一篇として掲載された「神様のメモ帳 探偵の愛した博士」は、前作の軽妙さを引き継ぎつつも、ややミステリ色が強く、引き締まった作品になっている。
事件の謎はフーダニット・ハウダニットホワイダニットが揃っていて均整のとれたものだ。別に身構えて読む必要はない。複雑なトリックが用いられているわけではないので、緊張せずに気楽に読むことができる。慣れた読者なら、真相を見破ることはそう難しくはないだろう。
事件について語られる一方で、この作品にはもう一つの謎が提示されている。その謎は《ニート探偵》アリスの言動に関わるものだ。これをミステリの謎として捉える人はあまりいないだろうし、強いてそう捉えることもない。しかし、最後まで読んでみると、伏線の張り方や手がかりの提示の仕方が非常にミステリ的であることに気づくだろう。「あ、なるほど」と腑に落ちる感覚は、よくできた短篇ミステリに共通のものだ。
ミステリとか謎とかとは関係ない見所もいくつかある。ベッドの上に腹這いになった無防備なアリスに藤島鳴海が近寄り、「ナルミ、早く早く」と急かされて彼女のハイソックス*2にそっと手を伸ばすシーンなど圧巻だ。少年はこうやって大人になっていくのだなぁ。
設定もよし、キャラクターもよし、ストーリーもよし、と三拍子揃った『神様のメモ帳』は今まさに佳境を迎えているところでもあり、既刊の増刷がかかっているのだから売れ行きも悪くないはず。打ち切りを懸念する声もあるが、そんなことはないと信じる。『神様のメモ帳』の早期復活を切に望む。
……でも『さよならピアノソナタ』というのも面白そうだから、これはこれで期待大。

*1:電撃hp 46所収。

*2:ニーソックスのほうがよかったのに……。