数が増えても消えない偏りがある

アンケートって取る場所によって、どうしても意見が偏向してしまいますが、それでもある程度の数の回答を得ることが出来れば、どこまでが共通認識でどこからが認識の別れる部分なのか見えてくる……んじゃないかなたぶん。

それは違います!
調査対象人数が少ないために、たまたま特殊な傾向をもった一人または数人の傾向が過大に評価されてしまうという偏りは、対象人数を増やすことで緩和できる。でも、調査対象集団に特定の傾向がある場合には、そこから生じる偏りは対象人数を増やしても緩和されない。
たとえば、ライトノベル読者の年齢別3区分人口*1の割合を調べるために、大学生協の書籍コーナーライトノベルを買った人を対象にアンケートをとる場合を考えてみよう。
たまたま調査開始日に大学を訪れた中世経済史の権威(75)が『金と香辛料』を買うつもりで間違えて『狼と香辛料』を買ったとする。この日、その生協でラノベを買った人が10人しかいなかったなら、「ラノベ読者のうち10パーセントは高齢者」という困った結果になるが、この偏りは調査を継続して対象人数を増やすことで解消できる。しかし、大学生協利用者の大部分を占める大学生または教職員が一般のライトノベル読者全体の年齢構成を反映していないという偏りは調査対象人数を10人から100人、さらに1000人、10000人に増やしたとしても決して解消できない。調査方法そのものに欠陥があるのだから、対象者数を増やすよりも先に調査設計を根本的に見直すべきだ。
いま挙げたのはちょっと極端な例なので実際にはありそうもないが、どんなアンケート調査にも基本的には同じことがいえる。たとえば、インターネットを通じたアンケート調査はインターネット利用者のもつ特定の傾向を反映せざるをえない。インターネット利用者がどのような傾向を持っているのかがわかっていれば調査結果を補正することは可能だが、そのためにはインターネット以外の方法で調べた別のデータがなければならない。原理的には不可能ではないが、実行しようとすると相当大変な作業になることだろう。
もちろん、正確さを重視せず「ただなんとなくもっともらしく思える」という心理的効果を求めるのなら、アンケート調査の対象者数を増やすのは非常に有効だ。100人が回答したアンケートより1000人が回答したアンケートのほうが信頼できそうな気がするし、10000人が回答を寄せていれば逆らいがたいほどの重みが生じることだろう。

*1:0歳から14歳までの年少人口、15歳から64歳までの生産年齢人口、65歳以上の老年人口または高齢人口。