ルーベンスとムンクの違い

 ところで、『フランダースの犬』最終回でその絵が登場する巨匠ルーベンスは、日本では案外人気がないようだ。そして、ムンクの神経質な絵は人気が高い。

 ひょっとしたら、この差は、ルーベンスの女性たちが豊満で、ムンクの人物が痩身であるところから来ているものではないか、と素人のぼくはかってに思っているのだが、いかがなものだろうか。

ルノワールの描く女性も相当豊満だ*1が、日本で非常に人気の高い画家だ。喫茶店のチェーン店の名前にもなっている。
日本で西洋美術の本格的な受容が始まったのは明治以降のことだが、当時既に18世紀以前のオールドマスターの作品はおいそれと買えるものではなくなっていたので、日本人絵画コレクターは主に印象派やその周辺の作品を蒐集した。また、洋行した日本人画家たちも当時の現役画家に師事したので、日本において西洋画といえば19世紀後半から20世紀初頭にかけてのものが基調となった。いわば、日本人にとっての西洋画「原体験」ともいえる。その結果、現代でも日本で一般に人気のある西洋の画家はほとんどこの時期に集中している*2
バロック期のルーベンスと19世紀末のムンク*3を単純に比較するのは乱暴だが、強いて両者の人気の差を説明するなら日本における西洋画受容史により理由づけるほうがもっともらしいと思う。

*1:もちろん例外もある。たとえばブリヂストン美術館所蔵の「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」など。

*2:もちろんこれも例外がある。たとえばフェルメールダ・ヴィンチなど。

*3:20世紀に入ってからも活動を続けているが、「叫び」や「思春期」など代表作の多くは1890年代に描かれている。