哲学は難しい
- 作者: 野矢茂樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/10/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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たぶん、ふつうに日本語の文章が読める人なら、誰でもこの本に書かれている事柄は理解できるだろう。とはいえ、もちろん斜め読みやとばし読みではダメで、ちゃんと書かれている言葉を順に全部拾い上げていかなければならないけれど。ある種の「読書家」の中には、体質的にか習慣的にか、キーワードらしきものだけつまんで読んであとは自分の既存の知識で補完して本を読んだ気になることしかできない人がいるらしいが、そんな人にはこの本は理解できないかもしれない。でもまあ、そんな人はほんの少数だ。
というわけで、この本を手に取り、最初から最後までふつうのスピードで読んでいけば、たいていの人はちゃんと理解できるはずだ。特に専門的な知識も特殊な技能も必要ない。非常に簡単なことだ。
そして、本を読み終えて閉じた瞬間に「ああ、哲学って難しいなぁ」と呟くに違いない。そう、哲学というのは無茶苦茶難しいのだ。難解で何度読み返してもちんぷんかんぷんな哲学の本を読んだときには、その本の内容の難しさに紛れてしまってはっきりとしないけれど、このようにわかりやすく書かれた本を読むと、哲学の難しさがもろに迫ってくる。
その難しさを自分なりの言葉で表すと、こうなる。「世界は何の矛盾もなく、うまくできているに違いない。しかし、世界について語ろうとすると、あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たないというふうに、どうやっても辻褄が合わなくなってしまう」と。
残念ながら、この本は、どうすれば世界についての実感を保ったまま、矛盾なくすんなりと世界について語ることができるかという肝腎のことを教えてはくれない。それは自分で考えるしかない。
でも、もし仮に一生ずっと考え続けたとしても辻褄合わせが完了することはないだろうし、そもそもそんなことを一生考え続けるなどできっこない。たまに、そっとつついてはさっと逃げるのが関の山だ。ああ、哲学ってのは難しいなぁ。