こわいでんきがながれています

札幌市交通局は17日、ニッケル水素電池を使った川崎重工業路面電車「SWIMO(スイモ)」の試運転を始めた。【略】市民からはJR札幌駅前乗り入れを求める声もあるが、赤字経営に悩む市交通局は「非電化区間として路線を延長するわけではない」と慎重な姿勢だ。

鉄道路線のうち、電気機関車または電動客車もしくは電動貨車が走れるように設備を整えた区間を「電化区間」と呼ぶ。これは考えてみればおかしな言い方だ。なぜなら、「電化」という言葉には、もともと電化されていなかったものが電化されるという動的な含みがあるからだ。
昔の鉄道はほとんど妃殿下、もとい非電化で、それが徐々に電化されていったという歴史的経緯があるため、「電化」という言葉の余計な含みはあまり問題にならなかった。しかし、近年の都市近郊路線は最初から電車が走れるようにつくっているのだから、これを「電化区間」と呼ぶのは本当は適切ではないし、電化区間の電線を外して電車が走れないようにしたところを「妃殿下、もとい、非電化区間」と呼ぶのもおかしい。だが、「電化」のもつ動的な含みを持たず、この言葉の背後にある電化進歩史観*1から免れた中立的な言葉は今のところ存在しないので、おかしさに気づいている人でもこの言葉を使わざるをえないのが実情だ。
今年の夏に小海線に乗りに行ったときに、JR東日本が誇る世界初のハイブリッド鉄道車輌キハ200形気動車に乗車した。乗り心地はまさに電車のそれだったので大いに感心すると同時に、この車輌を気動車にカテゴライズするのは適切なのかどうかという疑問を抱いた。さらに、もしキハ200形を電車とみなすなら小海線は電化区間だということになるのだろうか、とも。これらの疑問は非常に重大かつ困難なものであり、自力での解決はほぼ不可能だと思われた。だが、他人の手を煩わせるほどのものでもない。結局、そうこうするうちに問題そのものを忘れてしまい、自然消滅した。
閑話休題
冒頭で紹介した記事に出てくる水素電池やリチウム電池を使った車輌は間違いなく電車だと断言できる。だから、キハ200形のようなコウモリ問題は生じないのだが、もう一つの問題、すなわち当該車輌が運行する路線は電化区間なのか妃殿下、もとい、非電化区間なのか、という問題はここでも大きくのしかかってくる。幸い、今のところ試運転の段階なので、この問題は表面化していないが、これが本格的に営業運転を始めたら大変なことになるだろう。きっと、札幌市交通局の中の人も軽々しく「妃殿下、もとい、非電化区間として路線を延長」云々とは言えないだろう。このような事態を避けるためにも、電池で動く電車が妃殿下、もとい、非電化区間を走ることを規制すべきだと思うのだが、どうだろう?

*1:これは今でっち上げた言葉だ。要するに、電車が走れない状態から電車が走れる状態へと鉄道は進歩するという歴史観のことだ。