効率優先のバイパス

 沿線の自治体も反発を強めた。諏訪広域連合は26日、正副連合長(市町村長)会で急きょBルート推進の既定方針を確認。同連合長の山田勝文諏訪市長は「想定ルートは単なる東海道新幹線のバイパス。大都市を結ぶだけで、地方の経済効果は全く期待できない」と首を振る。小坂樫男伊那市長も「最短で結びたいという気持ちは分かるが、効率優先でいいのか」と不安ものぞかせた。

中央リニア新幹線*1はもともと東海道新幹線の補完または代替ルートとして構想されたのではなかったろうか? 新線を建設するのに地元の協力が欠かせないから、「地域活性化」などというお題目を掲げたこともあるのだろうが、でもそれは副次的な事柄に過ぎない。
リニア新幹線の売りは何といってもスピードだ。かつて「東京−大阪間を1時間で結ぶ夢の超特急リニアモーターカー」という類のキャッチフレーズに心躍る思いをした経験のある人は多いだろう。東海道新幹線で3時間10分の時代にはそれはそれは素晴らしくめざましい速さに思えたのだ。もちろん、当時、飛行機などという乗り物は全く一般的なものではなかった。
だが、時代は変わった。いまや長距離輸送の主役は航空機にとってかわられ、来年春のダイヤ改正では寝台特急が大幅に廃止される。新幹線にしても、東海道区間では優位を保っているものの、より長距離になると航空機とのシェアは逆転する*2N700系を導入してスピードアップにつとめているのは、航空機との競争に勝ち抜くためだろう*3
この時期に莫大な投資を行って高速新線を建設するというのはどういうことか。詳細な分析をするには資料が不足しているが、少なくとも通過する地方の経済の活性化に寄与することなど考えていられないだろう。予定では通過県ごとに各1駅ずつ設置することになっているそうだが、仮に伊那に駅ができてもどれだけの列車が停車するのかは疑問だ。「朝夕のみ上下各1本ずつ、日中は全列車通過」ということになったとしても全く驚かない*4
また、新線が開通して便利になったからといって、それが地域経済にプラスに作用するとは限らない。「ストロー効果」または「ストロー現象」という言葉を聞いたことがある人もいるだろう。建設工事に関する経済効果は期待できるものの、最近の産業構造では建設業からの波及効果は限定的なものにとどまるときく*5
中央リニアが南アルプスを真っ直ぐ抜けることになれば、長野県内の駅は飯田に設置されることになるだろう。もしかしたら、その時、茅野や伊那の人々は「ああ、リニアが通らなくてよかった」と胸を撫で下ろしているかもしれない。

*1:リンク先の記事では「リニア中央新幹線」と書かれているが、「中央リニア新幹線」または単に「中央リニア」と呼ぶほうがしっくりくるような気がする。気がするだけなので別に強く推奨するわけではないが、とりあえずこの文章ではそう呼んでおくことにする。

*2:どこらへんが境目なのか調べればわかるのだろうが、面倒なのでパス。

*3:と思っていたら、来年のダイヤ改正東海道新幹線のすべての「のぞみ」が品川と新横浜に停車することになった。単純にスピードで勝負するのではなくて、スピードアップで稼いだ時間を停車駅数増に充てて、乗車機会を増やすという戦略のようだ。

*4:もっとも、本当にそんなダイヤを組んだら、その思い切りに別の意味で驚くことになるだろう。

*5:これは聞きかじりなので確かなソースを示すことができない。誰か教えてください。