文学と現実社会

 この小説は初め右翼に睨まれて発禁となり、次に左翼に礼賛されることになるのですが、乱歩はそのいずれにも大して興味をもっていなかったようです。

 自分が書きたかったものは、そのような現世のことわりから外れた「もののあはれ」とでもいうべきものだったのだ、とかれは語っています。これこそ文学者のあるべき姿ではないでしょうか。

 有川浩は、ここで、現行の出版業界の問題点をはっきりと示している。そして、そのような自主規制と検閲制度が共謀関係にあることを暗に示している。

【略】

 しかし、いまは思う。有川浩は、この近未来の善良な市民たちに、きょうの我われ自身をオーヴァラップさせているのかもしれない、と。