無知が生み出した恐怖を鎮めるには知識が必要である

 私がかつて漂泊の癩者を何人となく見てきた経験によると、現実の癩者を見て同情の涙をもよおすような余裕は、いっさいこれを持ち得ないのが凡人としてはむしろあたりまえだともいえる。こざかしい理智が何といおうと、私の感覚はあまりにも醜い彼らを嫌悪した。そうして伝染の危険を撒きちらしながら彼らが歩きまわっているという事実を恐怖し、憎悪した。

 彼らが我々の社会を歩いているということは、癩菌のついた貨幣を我々もまた握るということなのだ。癩者は、彼が無心に生きている瞬間においてさえ、その存在と激しく相剋しているのである。つまり癩者と普通の人間とは決して相いれない存在なのである。そうして、おそらくはこれが癩の現実であり、運命であり、やりきれないところでもある。

概 念:ハンセン病は抗酸菌の一種であるらい菌による慢性細菌感染症で、主な病変は皮膚と末梢神経で、内臓が侵されることはまれです。各人のらい菌に対する免疫能の差から病型が分類されるので、免疫病とも言われています。「ハンセン病」が正式病名で、「らい」、「癩」などを用いません。診断・治療は一般の医療機関保険診療)で行われています。感染し発病することは稀です。感染源は、らい菌が多く証明される未治療患者で、飛沫感染といわれています。感染時期は免疫系が十分に機能していない乳幼児期で、その期間の濃厚で頻回の感染以外ほとんど発病につながりません。また感染から発病までには生体の免疫能、菌量、環境要因など種々の要因が関与するため長期間(数年〜10数年〜数10年)を要します。遺伝病ではありません。日本での新患数は、日本人は毎年数名、在日外国人は約6名です。