小ブッシュにも読ませたい

地中海世界のイスラム―ヨーロッパとの出会い (ちくま学芸文庫)

地中海世界のイスラム―ヨーロッパとの出会い (ちくま学芸文庫)

いい本を読んだ。ぜひ多くの人に読んでもらいたいものだが、どうやって紹介すればいいのか迷う。そこで、この本の最初から2番目の段落と最後から2番目の段落をそのまま引用してみることにしよう。
まず、冒頭の「日本語版に寄せて」から。

現代は、交通手段が高度化したために、物質的にも知的にもかつてのどの時代よりも、諸文化の混淆のはげしい時代である。このような状況におかれた人びとにとって、ひとつの文化が他の文化と接触した過去の経験に学ぶのは、たいへん大事なことである。本書はそうした場合の一例を描いている。

次に、巻末の訳者による「文庫版へのあとがき」から。

ところで、旧大陸世界の東の涯の日本列島は、明治維新にいたるまでたえず、東アジアの中心文明であった中国文明の影響刺戟をうけて育ってきた。同様に、旧大陸世界の西の涯であるライン川の河口あたりを中心とする西北欧は、十六、十七世紀ごろまでたえず、中東・東地中海の中心文明からの影響刺戟をうけて育ってきた。本書の内容は、後者の過程の中でもいちばん圧巻の、アラブ・イスラム文明の西北欧への影響であるが、本書などを手がかりに、右のような旧大陸世界東西の涯の文明史展開の比較研究をやるとおもしろいと思う。たとえば、西北欧人のアラブに対するオリエンタリズムは、日本列島人の中国に対するコンプレックスとそっくりの面を多分に持っている。

この本は、1984年に筑摩叢書から刊行され、その後品切れになっていたものを再刊したものだそうだ。20年以上も前に出た本*1なので、もしかしたら個別のデータは古びてしまっているかもしれないが、この本そのものの価値はむしろ増しているのではないかとも思える。この昏迷の時代に、手軽に読める文庫本として再刊した筑摩書房に敬意を表したい。

*1:原著はさらに10年以上前の1972年に出ている。