一迅社文庫創刊第3弾全3冊の感想

一迅社文庫創刊第1弾全7冊の感想一迅社文庫創刊第2弾全3冊の感想に続き、3ヶ月め。今月は一迅社文庫アイリスが創刊しているが、さすがにそっちまでは手が回りません。無印の一迅社文庫完全読破もいつまで続くやら。
以下、読んだ順に簡単に感想を書きます。

さくらファミリア

さくらファミリア! (一迅社文庫 す 1-2)

さくらファミリア! (一迅社文庫 す 1-2)

オビに間違いがある。

2,000年のときを超えた借金が巻き起こす、祐太と石狩姉妹のドタバタ借金ラブコメディ、ここに開幕!

ヒロインの双子姉妹の姓は「石狩」ではなく、「砂漠谷」だ。姉が「砂漠谷エリ」、妹が「砂漠谷レマ」という凄まじい名前なのに、なんで間違えるかなぁ。
姉妹の名前の出典はマタイによる福音書第27章第46節*1だ。

三時ごろ、イエスは大声で叫ばれた。「エリ、エリ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。

同じ言葉はマルコによる福音書第15章第34節にも出てくる*2

三時にイエスは大声で叫ばれた。「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。

ヒロインの名前の出典がマルコ福音書だったならもっとエロイことになっていたんじゃないか、などと思った。
……えっと、『さくらファミリア!』はそういうお話です。何のことを言っているのかわからない人は、ぜひご一読ください。
杉井光は鬱展開に定評がある*3が、今回は重苦しさをほぼ完全に払拭して明るく楽しいコメディ一色に仕上げている。カバー絵から受ける印象ほどには美少女文庫っぽくはないし、若干ラブ寄せ不足の感もあるが、続きがありそうなので、続巻で嬉し恥ずかしいやーんばかーんな展開になることを期待しよう。
ところで286ページ7行目冒頭の単語は「神父」であるべきところ、別の単語になっている。これは間違いではないが、不適切だろう。

幻想症候群

幻想症候群 (一迅社文庫 に 2-1)

幻想症候群 (一迅社文庫 に 2-1)

幻想症候群という謎の病気(?)を巡る連作短篇集。第2話「無限回帰エンドロール」は単独の作品としては悪くないが、無理矢理連作の中に押し込んだような感じがした。後の3篇は淡々とした雰囲気の中に不思議なセンスを感じる良作。ただ、第3話「『夏休みの終わり』」*4の過去と現在が交錯する構成はあまり効果を上げていないように思う。
第1話「遥か遠くの夏」の水没した都市、あるいは第4話「一〇〇〇年の森」の××××後の世界でひとつの目的をもって動く××××*5など、SFによくある手垢のついた設定ではあるのだが、既視感が鑑賞の妨げにならなかったのはどういうことか。これは慎重に検討してみる価値がある。でも検討しない。
同じ作者の『二四〇九階の彼女』『]二四〇九階の彼女2』は未読だが、機会があれば読んでみたいものだ。

暗く、深い、夜の泉

暗く、深い、夜の泉 (一迅社文庫 は 1-2)

暗く、深い、夜の泉 (一迅社文庫 は 1-2)

先月の『月明のクロースター―虚飾の福音』に続き2ヶ月連続刊行だが、今回は2004年に講談社X文庫ホワイトハートから出た『暗く、深い、夜の泉。―蛇々哩姫』の再刊。『月明のクロースター』と同じく学園ものだが、こちらには超自然的な要素が入っている。
メインの視点人物である佐原佐記子のほかに数人の登場人物の視点で語られる三人称多視点小説だが、その中に謎の核心を握る倉宮凪のパートがかなり多く挿入されていて、やや気になった。別に単一視点で統一する必要はないと思うが、倉宮凪の心理や彼女の過去のエピソードなどは最後の最後まで隠しておいて、佐原佐記子の視点から徐々に暴かれるという構成のほうがよかったのではなかったか。
それはともかく、小説後半で段落冒頭の字下げが行われていない箇所がいくつかあった。それと、あのイラストはいかがなものか。淡いタッチというより、単なるラフ画のように見えるのだけど。

まとめ

折り込みチラシを見て思ったことでも書こうかと思っていたが、前回と同じなので省略。
あ、そうそう。
チラシもそうだけど、オビにも本体の巻末にも、今月創刊したばかりの一迅社文庫アイリスの広告や紹介が全くないのはなぜだろう? どうせ対象読者層は重ならないから、ということなのだろうか。

追記

はてなキーワードに「サバクタニ」が登録されていて、福音書の引用もあることに気づいた。せっかく聖書を本の山から発掘して調べたのに、がっかりだ。

*1:訳文は新共同訳。

*2:ルカによる福音書ヨハネによる福音書には出てこない。

*3:もっとも、個人的には杉井光の小説を読んでみんなが言うほどダークだと思ったことはない。

*4:タイトルそのものに二重括弧がついている。

*5:最終話なので伏せ字にしておく。